ハ−ト&ソウル! |
近年稀に見る,様々な要素を含んだ激闘だった。 そして確かな事は「ス−パ−ボウル史上」に刻まれるであろう,奇跡的な好ゲ−ムであったという事だ。 その激闘を制したのは、一人のある男の存在故だったと言っても過言ではないだろう。 チ−ム全員が,正に一枚岩となり、彼の引退に大きな花を添えようと、献身的な熱いパッション迸るプレ−を、最後の瞬間まで、愚直にやり通した。 レイブンズそのものと言ってもいい,象徴的な存在。 レイブンズを語る上で,なくてはならない存在。 「レイ・ルイス」 今季「レイブンズ」は,中々調子の波に乗れず喘いでいた。 レギュラ−シ−ズン最終盤には,チ−ムはオフェンスコ−ディネ−タ−を解雇。 一つ間違えば,このままプレイオフにも進めないような最悪な状況も想定された中、大胆なオフェンスラインの組み換えが功を奏した形となった。 QB(クォ−タ−バック)のジョ−・フラッコも,デビュ−年から今季まで5年連続チ−ムをプレイオフに導いてきたとはいえ、ここ一番の大舞台では弱い「勝てないQB」という、有り難くない「レッテル」を貼られていた。 それが・・・ プレイオフが始まると,そこには同じチ−ムとは思えない「レイブンズ」がいた。 改革を施されたオフェンスラインは尚一層しっかりと機能し始め,QBのフラッコは、今迄の悪評は何だったのかと思わせるクォ−タ−バッキングを展開。 12シ−ズン前に,ス−パ−ボウル初出場で初優勝を飾った時には(この時、レイ・ルイスは、ラインバッカ−として、史上初のMVPに輝いている)、ディフェンスで圧倒して勝利を勝ち取っていたのだが、それからは、ディフェンスは常に、NFL全体でも、1・2位辺りを記録しながら、オフェンスが機能せず敗れ去るというゲ−ムを繰り返していたのだ。 プレイオフ初戦,ワイルドカ−ドプレイオフでは、今季のドラフト全体1位指名のル−キ−QB、アンドリュ−ラックを擁するインディアナポリス・コルツに全くゲ−ムを創らせず圧勝。 ディビィジョナルプレイオフでは,今季、デンバ−・ブロンコスに電撃移籍をし、信じられない程の短期間にチ−ムを纏め上げ、レギュラ−シ−ズンを怒涛の11連勝で駆け上がり、チ−ムをプレイオフに導いた、ペイトン・マニングに、思い通りの仕事をさせず、W(ダブル)オ−バ−タイムの死闘の末、サヨナラフィ−ルドゴ−ルで撃破。 過去,ペイトン・マニングには、レイブンズはプレイオフで苦渋を舐めさせられ続けていたのだが、とうとう初勝利を挙げた。 このゲ−ムで,QBのフラッコは、起死回生のロングタッチダウンパスを2本決めている。 1本目は,第2クォ−タ−、前半終了残り僅か。 2本目は,ワンタッチダウン差を追う、第4クォ−タ−のタイムアップ・試合終了寸前、誰もが、デンバ−ブロンコスの勝利は疑いないだろうと思っていた、その瞬間。 大きな放物線を描いて放たれたパスは,ワイドレシ−バ−の手に収まり、そのまま彼はエンドゾ−ンに走り込んだ。 そして,チャンピオンシップゲ−ム。 QBは,ペイトン・マニングと並び、2000年代のNFLを共に牽引してきた、トム・ブレイディ。 デンバ−戦でもそうだったのだが,このペイトリオッツ戦でも下馬評は、レイブンズが圧倒的に不利だったのだ。 この日は強風吹き荒れる,最悪なコンディションの中、フラッコは冷静な、粘り強いクォ−タ−バッキングを見せ、ペイトリオッツを、ブレイディを撃破。 何と,シ−ド1位・2位のチ−ムを続けて破るという、大波乱の演出を連続して見せたのだ。 そして「ス−パ−ボウル」 相手は,2年目の超新星QB、コリン・キャパニック擁する、名門、サンフランシスコ・49(フォ−ティ−ナイナ−ズ) 最初から好ゲ−ムが期待された中,蓋を開けてみれば。 これが,ス−パ−ボウルの重圧なのか、キャパニックの、彼の持ち味である、足を絡めた多彩なオプションプレイは影を潜め、前半はタッチダウンを1本も奪う事が出来ず終了。 それに呼応するかのように,自慢のディフェンス陣も(11人中、6人がプロボウルに選ばれるという、超強力ディフェンス)、全くといっていい程機能せず、レイブンズオフェンス陣に、フラッコに面白いようにプレ−を決められ続け、前半終了時点で、3本のタッチダウンパスをヒットされ、21対6という、予想外の点差となってしまっていた。 ハ−フタイムを挟んで,チ−ムが生まれ変わるという事は良くある事なので、それ程心配はしていなかったのだが、後半開始早々、とんでもないビッグプレイが飛び出した。 後半のオフェンス開始はレイブンズからだったのだが,相手のキックオフをエンドゾ−ンの奥でキャッチした選手がリタ−ン開始。 それが,真ん中を突っ切るように走り込んだかと思ったら、アッという間に密集を突き抜け、タッチダウン! 自陣エンドゾ−ン内側からの,108ヤ−ド、リタ−ンタッチダウンは、ス−パ−ボウル新記録。 これにより,28対6。 今度は,相手のキックオフが行われ、ナイナ−ズのオフェンスへ。 しかし,このショッキングな空気を払拭出来ずにオフェンスが始まり、もしそのオフェンスを、レイブンズが簡単に止めてしまうような事があったなら、もう殆どゲ−ムは終了だろうと、そんな面持ちで、全ての人々が、全世界の人々が、固唾を飲んで見つめていたのだ。 そんな,ナイナ−ズオフェンス陣が、フィ−ルドに出ようとした瞬間。 ド−ムのライトが,一つづつ、明かりを落としていき・・・ 何が起きているのか暫く分からなかったのだが、それは「停電」だった。 この「停電」は前代未聞の出来事で。 それから35分という中断を経て試合再開。 この中断が両チ−ムにどのような影響を及ぼすのか懸念されていたのだが,流れを引き寄せたのは「49」だった。 落ち着きを取り戻し,本来のプレ−を現出出来るようになった、キャパニックを中心とした、ナイナ−ズオフェンスは見事蘇り、怒涛の反撃を開始。 そのオフェンスから,レイブンオフェンスのハンブルなどもあり、一挙に17点を挙げ、気がついて見れば、28対23と、5点差に。 この時点で,ラスト、第4クォ−タ−が丸々残っていたので、勝負の行方はまだ全く分からない状況ではあったのだが、僕は一つ、ナイナ−ズに危惧を抱いていた。 それは何かというと,2つのタッチダウンを連続して決め、次のオフェンスでも、いいテンポで攻め込み、3つ続けてタッチダウンを決めれば、モメンタムは完全にナイナ−ズが握り、大逆転勝利が現実味を帯びるという、あと一歩のところでタッチダウンを決められず、フィ−ルドゴ−ルの3点のみとなってしまったからだ。 僕はこのプレ−が,この大一番の行方を左右した、とても大きなプレ−だったのではないのかと、試合終了後に思っていた。 これは他のスポ−ツにも良く言われる事なのだが,追いつくことは出来ても、追いつく事に力を使い果たしてしまっていて、結局最後には振り切られてしまう。 そう,逆転を決めるなら、追いつくだけではなく、その勢いで、一気呵成に抜き去らなければいけないという事なのだ。 そうされると,相手は意気消沈してしまい、追いつく気力もない状態に追い込まれると・・・ ラストクォ−タ−。 レイブンズがフィ−ルドゴ−ルを決め,31対23 ナイナ−ズがタッチダウンを決め,2ポイントコンバ−ジョンで同点を狙うも叶わず、31対29 返すオフェンスでレイブンズ、タッチダウンならずもフィ−ルドゴ−ルを決め、34対29 この時点で,多分多くのナイナ−ズファンは、サヨナラタッチダウンという劇的な幕切れを期待して、チ−ムに声援を送り続けていた事だろう。 運命のドライブ。 1度噛み合い始めたナイナ−ズオフェンスを,レイブンズは止める事が出来ず、自陣エンドゾ−ン手前5ヤ−ドまで攻め込まれる。 タイムアップまで,あと2分。 ナイナ−ズの奇跡的な逆転勝利か!? きっとあの瞬間,ナイナ−ズファンは、そう信じて疑わなかった。 レイブンズファンは,必ず止めてくれと。 結果は。 ファ−ストダウンの攻撃からパスを選択し,3回の攻撃全てでパスを失敗し、攻撃権を、割とあっさりと相手に渡してしまう結果となったのだ。 ランオフェンスを軸としてここまで戦ってきたチ−ムが,最後の最後の、一番肝になる場面で、一度もランを選択する事なく終わってしまった。 ここぞという場面で,手詰まりとなってしまった感は否めない。 自身のチ−ムのスタイルを信じ抜けなかったという事だろうか。 (この最後のプレ−については,これから暫らくの間、賛否両論の意見が飛び交う事が予想される) ただ,そこには「絶対にタッチダウンは許さない」という気迫に溢れたレイブンズディフェンス陣の強い思いが、チ−ム全体から立ちのぼっていた。 もうその時点で,残り時間は1分弱。 レイブンズは,時間をたっぷりと使う為と、相手にパントリタ−ンをさせない為に、エンドゾ−ン内からのパントを蹴らず、セ−フティを選択(これは反則で相手に2点入る) そして・・・タイムアップ。 最終スコアは,34対31 もう一つ,ナイナ−ズが敗れ去った原因を敢えてあげるとすれば、ベテランキッカ−、デビッド・エイカ−ズの不調だろうか。 NFLレベルのトッププロなら,外す事など有り得ないという距離のフィ−ルドゴ−ルを、彼はこの日も一本外してしまっていたのだ。 レギュラ−シ−ズンでも,目を覆いたくなるような不調振りで、それはプレイオフに入っても変わらなかった。 そんな彼を,普通ならレギュラ−シ−ズン中に解雇されていても仕方ない状況にまで陥っていた彼を何故使い続けていたのかは、ヘッドコ−チのみぞ知る事なのかもしれないのだが・・・ ここで興味深い逸話を一つ。 レイ・ルイスが,NFLデビュ−を果たし、QBから、記念すべき初サックを挙げた相手は、今回のス−パ−ボウルの対戦相手「49」のヘッドコ−チ、ジム・ハ−ボ−だった。 ジム・ハ−ボ−は当時,インディアナポリス・コルツのエ−スQBだったのだ。 時を経て,立場は変われども、再び、あいまみえる事となった今回のス−パ−ボウル。 人と人との「縁」に「交わり」の不思議さに,思いを馳せずにはいられない。 「レイ・ルイス」は見事に引退の花道を飾った。 そうなれば本当にドラマのようだと思っていた事が,現実の事となった。 プレイオフ直前に何故引退を表明したのかという問いに対し,レイ・ルイスはこう答えている。 「ワイルドカ−ドプレイオフでのホ−ムでの戦いが,ホ−ムでファンの方達と会える最後になる。だから、ちゃんと、みんなにお別れが言いたかったんだ」と。 チ−ムのプレイヤ−から,チ−ムスタッフ全員から尊敬され、愛されていた、レイ・ルイス。 今回のプレイオフで対戦した「49」のQB、コリン・キャパニックも,憧れの存在だったと語っている。 そして,彼の情熱のある魂のこもったプレイスタイルは、自分の目標だったとも。 彼をリスペクトする選手やコ−チはNFLに数多くいる。 引退をとても残念に思う選手やコ−チも同じく。 今季のプレイオフでも,彼は、チ−ム1のタックル数をあげている。 脚光を浴びるのは,オフェンス陣ばかりという時代に、ラインバッカ−という、そういう意味で、あまり陽の当たらないポジションで、強烈な光を放ち続けたレイ・ルイス。 彼は,その後に出てきた多くのディフェンスプレイヤ−達に、道を指し示し続けてきた。 大きな,とても大きな風穴を空け、NFLに、確かに新たな潮流を創ったのだ・・・ 2008年以降にNFL入りしたQBが,今は全チ−ムの半数以上にいるそうだ(レイブンズのジョ−・フラッコも然り)。 今やその代表ともいえるフラッコが,とうとう高く聳える2つのジャイアント(ペイトン・マニング&トム・ブレイディ)を制覇した。 世代交代が急に進んできたような感を受けるNFL。 しかしもうフラッコ達より新しい世代が,既に台頭し始めている。 今季のプレイオフに勝ち上がった3人の新人 QB,アンドリュ−・ラックと、ロバ−ト・グリフィンjrVと、ラッセル・ウイルソン。 そして2年目のQB,コリン・キャパニック。 勿論,彼等意外にも優れたQBはまだまだいる。 ディフェンス陣にも,1年目・2年目で、とてつもない記録を叩き出しているプレイヤ−が何人もいる。 今のNFLを俯瞰して見ると,まさに「戦国時代」という言葉がピッタリだ。 来シ−ズンは全く予想が立たない。 分かるのは,今シ−ズンよりも,遙かに厳しい戦いの連続になるだろうと言う事だ。 そして,このス−パ−ボウルでレイ・ルイスの凄さに触れた少年が、いつかNFLのフィ−ルドに立つような事になったら、それは本当に素晴らしい夢のような事だと思う。 いつもいつもハ−ドなプレイで,フィ−ルドを我が物としていた、レイ・ルイス。 あなたの,あの雄叫びを、ダンスを、魂のパフォ−マンスを、私達は決して忘れる事はないだろう。 ハ−ト&ソウル その強い,猛き思いは、永遠に、時を越えても受け継がれていくだろう・・・きっと、必ず・・・ 2013/2/6(水)15:20 自宅にて & 2013/2/7(木)0:40 同上 |
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