あの日のテニス・ボ−イ


雨がしとしと降っていた。

「僕はこの道を,もうどれくらい辿ってきたのだろう」

そんな事を思いながら,僕は歩を進めている。
何も変わっていないような,全てが変わってしまったような風景の中、ボ−ルを打ち合う音が耳に届きはじめる。

ここに初めて足を運んだのは,中学一年の夏。
その年の春,僕達、鶴が台中学テニス部に入部した一年生は、全員、その夏の大会に出場した。
部員が少なかったという事もあるのだが,とにかく練習をしてコ−トに立った。
中学の3年間は,毎日がテニス漬けの日々だった。
テニスしか頭にはなかった・・・

雨の中,プレ−を続けている人達を視界の端にとらえながら、「ド−ヴィル」の扉に手をかける。
その姿勢のまま,テニスコ−トにもう一度視線をやった。

・・・あの頃の空を思い浮かべ・・・
・・・あのポイントを思い浮かべ・・・

僕は静かに,次の一歩を踏み出していた。


2000/春


back Copyright 1999-2006 Sigeru Nakahara. All rights reserved.