風神の海・雷神の大地


夢を抱き,それに邁進しようとする男がいる・・・

その夢に己が人生を賭けんとする男がいる・・・

最近僕が読み返していたのは,北方謙三さんの初歴史小説「武王の門」上・下巻でした。
二十数年に渡る男の壮大な夢と友情のドラマをダイナミックに描いた,この一大叙事詩ともいえる作品は、
心の琴線に触れるどころか、心の底にあるものを掴み出されるかの如くの衝撃を僕に与えました。
舞台は南北朝時代,そんなあまり語られる事のない、難しい時代に敢えて挑み、尚且つ、日本史の中にも
ほんの数行程度しかでてこない人物に光をあて、みずみずしく描ききったこの作品。

男は,己の血に苦悩し、生き様にもがきながら、自分が生きる道を模索し、そして、心の内にある熱き夢を
夢のまま眠らせないよう、盟友と共に走り続ける。

生きながらの死を肯んじ得ない男達は,誇りと夢に、己の全身全霊を注いでいく。

ある時は迷いながら,ある時は立ち止まりながら、それでも真っ直ぐ前を向いて、自分の生き方に恥じない
行動を取る男達・・・

この小説の後,北方さんは何編もの南北朝時代の作品を発表し、オリジナルの剣豪小説や、「三国志」、
そして最近では「水滸伝」を刊行され始めました。
それら綺羅星の如く輝く作品群の第一歩となった「武王の門」。

何気ないシ−ンなのに脳裏に焼き付いているのは,北方さんの、圧倒的な描写能力と文章力があったれば
の事でしょう。

このような小説に出会う事が出来て,僕は幸せです。

今読み返し始めたのは,「武王の門」の続編ともいうべき「陽炎の旗」です。
男達の熱い魂の滾りは果てる事を知らず,次の代、その又次の代へと受け継がれていきます。
「ただ生きる事」をよしとしない男達の叫びが,空を、海を、大地を震わせます。

「今だ雄飛の時を得ず・・・」

「生きる事」を,誇りを、志を忘れずにいる事を胸に抱きながら、僕は自分の秋(とき)を待とうと思います。
ゆっくりと,しかし確実に近ずいてきている秋(とき)を感じながら。

彼等と同じように,潔く生きたいと思いながら・・・

2001/冬


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