ハ−トウォッシュトラベラ−


「まるで日本海のようだ」

荒れ狂う海原を見ていてそう思った。
荒れた日本海など見た事もないくせに何故かそう思った。
砕ける波頭がやけに白く感じられる。
潮流の関係なのか,暗礁があるからなのか、沖の何ヶ所かで、波頭が横に疾る様が目に飛び込んで来た。
白い帯が立ちあがり,海に還る姿に目を奪われ、その海上を見続ける。
自然にとっては当たり前の光景でも,それは紛れもなく不思議な出来事で・・・

鳥が風に流されながら飛んでいる。

こんな日でも浜に降りている人達が見える。
ホテルの裏側は晴れ間が覗いているというのに,この空と海のありようの凄まじさ。
でも僕は,こんな海が見たくて、ここにやってきたのかもしれない。
晴れ渡っていれば,リゾ−トという言葉を欲しいままに出来るこの浜も、あの沖縄の海と錯覚するかのような
碧さを湛えたこの海も、今の僕には必要ではなかったのだ。
部屋をも震わせる風と雨と波の音。
椅子に座り,窓越しに海と空を見つめる僕に、様々な思いが去来する。
幾度となく通り過ぎた映像が,また僕の心のスクリ−ンに投影され始める・・・

灯りを消して,夜の海の叫びを聞いていた。
闇の中,波頭の白さがやけに鮮やかだ。
寄せる波と一緒に海の彼方からやってくるもの達。
それらと正面から相対する為に,今僕はここにいる。
自分と相対する為に,今僕はここにいる。
目を閉じる。
すると,途端に全ての音が近くに感じられる。
すぐ目の前に存在しているかのようだ。
灯りをつける。
窓に映った自分の姿と,部屋の様子が目に映る。
いつもと変わらない筈の自分がそこにいる・・・

僕には,こういった旅が必要なようだ。
一人っきりになる時間。
心を洗う為の時間。
もしかしたらただの気休めなのかもしれないが,汚れた心でも、洗う事が出来るのだと信じたい。
疲れた心と体がリフレッシュ出来るのと同じように・・・


2001/9/9(日)  下田プリンスにて・・・    


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