金木犀の季節


数日前,駅に降りた僕は、唐突に金木犀の香りに包まれた。
まるで金木犀のア−ケ−ドを歩いているような錯覚を覚える程の香りの中、僕はゆっくりと家路を辿っていた・・・

そういえば,何年か前、伊豆にある一碧湖を訪れた事があった。
一周しても30分もかからなかったのではないかと記憶しているのだが,その湖畔のある一角に、金木犀が多
く植えられている場所があった。
それこそ,金木犀一色という感じで、体中をその香りの中に浸しながら、ベンチに座り、湖面をただ眺めやっていた。
あの時の金木犀は,妙に気持ちをセンチメンタルにしていた。
夕景に染まる水面を見つめながら,黄昏時の風が凪ぐ時間帯も、まるで風景に同化してしまったかのように、
じっとしていた。
一碧湖には,湖を見渡せる、気持ちのいいテラスがある。
ある美術館の中にあるのだが,何と言う美術館なのかは忘れてしまった。
残念ながら,そこにいると金木犀の、あの蒸せかえるような香りを嗅ぐ事は出来なかったのだが・・・

そんな事を思い返しながら,家路を辿っていた。
街中が金木犀の香りに包まれているようだった。
空を見上げると,綺麗なお月様が、ポッカリと澄んだ夜空に浮かんでいた。
今宵は金木犀が,月の光りを、尚更、冴え冴えとしたものにしているようだ。
音が聞こえてきそうな程の光りを浴びながら,僕は黙々と歩いていた。
「こんな夜はセンチメンタルになりすぎる」
そんな事を思いながら,もう一度金木犀の香りを胸一杯に吸い込んでいた・・・


2001/9/30(日) 自宅にて


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