小春日和


暖かい,と言うより、陽射しに包まれて歩いていると汗ばむ位の陽気だ。
風はそよぐ程で,時折、様々に色ずいた葉が、ゆらめきながら舞い落ちる。
ここでは紅葉がピ−クを迎えているのだろう。
言葉で表す事等とても不可能と思わせる,微妙な色彩のグラデ−ション。
そこここに「秋」は息ずいていて,空気の粒子にさえ溶け込んでいるようだ。
雲間から覗く青空。
ホ−ムを滑りでる横須賀線の車体に照り返す光り。
どこからか立ち上る煙の筋。
空を見上げると雲の流れが速い。
店内のBGMが心地よく耳をくすぐる。
珈琲を一口。
ペ−パ−バックを閉じる。
静かに深く息を吸い込み,腕を組む。
目の前を一葉がよぎる。
話声,鳥の鳴き声、足音、飛行機の音、食器の触れ合う音、音、音、音・・・
五感に触れてくるもの全てが心地いい。
ホ−ムに目を転じると,いつのまにか学生達が溢れている。
すっかり温くなってしまった珈琲を飲み干す。

「時よ,止まれ・・・」

霞がかかったような景色の中,急速に色をなくしていく景色の中、又一日が暮れてゆく。

「あっ」

突然のつむじ風に舞った葉達が雨のように降り注ぐ。
テ−ブルに,イスに、そして僕自身に舞い降りる。
その様は,西日に映え綺麗だ。
横顔に陽射しを浴びながら,もう一度空を見上げた。
蒼を背景に、一葉がゆっくりと、漂っていくところだった・・・


2001/11/30 15:50 小瀧美術館内「Caffe Angeli」 にて


back Copyright 1999-2006 Sigeru Nakahara. All rights reserved.