ラスト・デイ


買い物に出る為に乗った相模線の車窓から,今年最後の、雄大な富士の姿を目にする事が出来た。
茅ヶ崎から大磯へ。
夕陽に染め上げられた東海道線からも,遥かな富士を眺めやっていた。
大磯駅を出て,左に道なりに坂を降りて行く。
すると坂の途中,2〜3分のところ、左側に店が見えてくる。
「ブル−・マ−リン」
僕は,ここの店のブル−ボトルの白ワイン(ドイツ産)が好きで時々訪なう事があるのだが、今日もあの味に会
いたくて、数本を求めにやって来たのだ。
店が見えた瞬間,嫌な予感がしたのだが、果たしてその予感は当たっていて、「3日まで休ませていただき
ます」という張り紙が、あるかなきかの風に揺れていた。
そうなのだ,今日は大晦日なのだ。
しかし不思議と落胆した気分はなかった。
久しぶりにこの地の空気に触れられただけでも,僕は満足していたようだ。
「楽しみは来年に持ち越しかぁ」
と心の中で呟き,ホ−ムに佇んだ僕は夕陽を体一杯に浴びながら、電車の入線を告げるアナウンスに耳を傾けていた・・・

茅ヶ崎で幾つかの用を済ませ相模線に乗った頃には,あたりはすっかり暗くなっていた。
車窓には,とても低い位置に、薄いオレンジがかった幻想的な月が映っている。
空は晴れ明るい。
駅を降り,家に向かう間、あの月をもう一度見た。
何と言ったらいいのか。
言葉がみつからない。

「2001年のラスト・デイか」

今年,僕はしっかりと生きてきたのだろうか。
そんな事を思いながら家路を急ぐ僕の体に,月や星のあかりが降り注ぐ。
透明な時間の中,やけに自分の足音が耳につく。
ひっそりと穏やかに時が流れているようだ。
一年を締めくくるには相応しい日が暮れていく。

来年も幸多からん事を・・・

2001/12/31 自宅にて


back Copyright 1999-2006 Sigeru Nakahara. All rights reserved.