ア−ティストの本領


「技術」と「芸術」で評価されるスポ−ツに,フィギュアスケ−トがある。
その中でもシングルは注目度も高く,どの選手もオリンピックの舞台に立つ事を夢に見、ゴ−ルドメダルをその
胸に抱きたいと願っている。
今回のソルトレイクオリンピック,男子シングルで、そのゴ−ルドメダルに輝いたのは、ロシアのヤグディンだった。
「技術点」「芸術点」ともに完璧に近い得点を叩き出し,誰にも文句のつけようのない演技で、観客を魅了した。
シルバ−メダルは,同じくロシアのプルシェンコ。
今の男子シングル界は,この2強時代と言われている。
その理由は,この2人の、他を寄せつけぬ圧倒的な強さにある。
今までは,どちらかというと、ジャンプは素晴らしいが表現力に今一つ欠けるとか、逆に、ア−ティスティックな
演技は目を見張るものがあるが、失敗を必ずどこかでしてしまうといった、どちらかに優れた要素を持った人間
がメダルを制してきたり、両極にいる者の争いといった様相を呈していた。
それが,この2強に関していえば、両方を兼ね備えているのである。
二人の明暗を分けたのは,SP(ショ−トプログラム)での一つのジャンプの着地ミスだった。
オリンピック初出場となる19歳のプルシェンコは,多分目に見えないオリンピック独特と言われている
プレッシャ−に包まれていたのだろう。
最初の四回転失敗は,彼にも信じられなかったのではないのだろうか。
練習ではいつも完璧に飛んでいて,失敗等見た事がないというコ−チのコメントが、それを物語っていた。
しかしプルシェンコは2日後のフリ−で,4回転・3回転・3回転のコンビネ−ションジャンプ等といった信じられ
ないジャンプを決め続け、一ヶ月前に急遽変更した演目「カルメン」を見事に演じ切り、堂々のシルバ−メダルに輝いた。
一ヶ月前に演目を変えること事態異例の行為で,しかもそれを一ヶ月足らずで自分のものとしてしまったプルシェンコ。
それもこれも,ヤグディンを破る為だったという。
彼の「仮面の男」に対抗するには「カルメン」で挑むしかないと・・・

とにかくこの二人は群を抜いている。
ヤグディンが,滑り終わり、観客のスタンディングオベ−ションに応えながら、リンクの氷にキスをした場面は印象的だ。
そんな彼等の演技を見ながら,思った事がある。
自分達も同じだと。
そう,声優という仕事でも、技術だけ高くても、表現力だけが高くても駄目なのだ。
テクニック&グッドハ−トを兼ね備えた者でなければ,他人(ヒト)の心の琴線に触れる事等できはしないのだ。
それも高い次元のポテンシャルを維持し続け,更に己の目指す境地を追い求める強い心を持ち続けられる
人間でないと、そのような事は叶わないのではないのかと思う。
そう,それを必然としている人間でないと。

このオリンピックを見ていても,様々な事を感じさせられ、心をくすぐられ続けている。
「ア−ティスト」と呼ばれる人間は,もっと自分の事を厳しく律しないといけないんだとつくづく思い知らされた。
心に抱くは,全ての仕事、技術・芸術点共、6.0(満点)である。
「届かぬまでも飛ぶんだ」という強い意識が,限界を突破する大きな力になり、自分を前へ前へと推し進めて
くれる原動力になると思っている。

今に満足せず,そう、一歩でも遠くへ・・・
 
2002/2/16 15:41 自宅にて


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