僕の好きな風景


左側の景色が好きだった。
何の左側かというと,東海道線、東京方面に向かって左側に流れる車窓の風景だ。
それがいつの頃からか,右側の風景が好きになっていた。
僕は昔から風景を見ているのが好きで,特にこの東海道線からの車窓の景色は何度目にしていても飽きないようだ。
俗に「湘南電車」と言われているこの電車はボックス席で知られてもいるのだが,最近新しい、山手線のような
車両が増えてきて、ボックス席の車両が目に見えて減ってきた。
時間に余裕のある時は,あの緑と橙色の古い車両が来るまで、東京駅のホ−ムに佇み何台もスル−する時がある。
そして僕が必ずといっていい程陣取るのが,進行方向左側(上りだと右側)のボックス席の窓際で、そこに付い
ている小さな台に飲み物を置いて、静かに発車の時間を待っている。
本は陽がある内は開く事はない。
特に好きな風景がいくつかあるのだが,それはある場所のビルのイルミネ−ションだったり、緑の連なりだった
りと、人工、自然を問わないようだ。
不思議なのは,横浜を過ぎると、急速に「帰ってきた」という感じに包まれる事だ。
僕はそれらの風景に目を遣ったまま,様々な取りとめもない事を考えたり、何も考えなかったりしている。
そして,やがて湘南電車は、潮の匂いを含んだホ−ムに僕を送り届けてくれる。
この満足感を味わう為に,僕は「ここ」から一歩を踏み出しているのかもしれない。
春夏秋冬,朝・昼・晩。
それぞれの時間のそれぞれの顔に会う為に,僕はこれからも「湘南電車」に乗り続けるだろう。
いつまでも一緒に走り続けて欲しいという思いを抱きながら・・・


2002/4/21  茅ヶ崎「ドト−ル」」にて


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