夏至南風(カ−チベ−)の頃


この季節になると聞こえてくる声がある。
この季節になると懐かしく思い返す風景がある。

あの光と風と緑と青に無性に会いたくなる。
あの珊瑚と色とりどりの魚達に会いたくなる。
あの水の感触と透明感を思いだし,ビ−チに寝転ぶ自分の姿を思い描きながら、海の上にたゆたいながら
空を往く雲を見つめている自分を憶いだす。

一転,僕の前には一本の白い道が真っ直ぐどこまでも続いている。
両側には砂糖黍畑。
聞こえてくるのは,さわさわと砂糖黍の葉を揺らす音だけ。
強烈な陽射しの中,全てはやけにクッキリとしている。
僕は汗を拭うのも忘れ,遥か彼方に広がる海を見つめている。

今年も夏がやってくる。
抑えようとしても抑えきれない感情が膨れ上がってくる。
そろそろ豚の陶器の入れ物も目につきはじめてきた。
蚊取り線香の香りと共に,再び、暑い季節が、沸き立つ入道雲のようにやってくる。

そして,僕はもう、夏の中にいる・・・


2002/6/19(水)  Caffe「Angeli」にて


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