ラスト・ダンス |
「WE WANT MIKE!!」 残り時間7分台になってから何度目かのジョ−ダンコ−ルの大合唱が始まった。 ラスト(第4)クォ−タ−,ジョ−ダンはベンチスタ−ト。 コ−ト上では激しいプレ−が続き,刻一刻と時が過ぎる中、会場は異様な静寂に包まれていく。 もうそこにいる誰もが,一人の男しか見ていなかった・・・ 今シ−ズン限りで,「神」と言われた男がコ−トを去る。 マイケル・(エア−)・ジョ−ダン。 過去2回の引退からカムバックして来た「神」が,今度こそ本当にコ−トを去る。 ジョ−ダンがどれだけ別格の選手であったか,コ−ト外でもどれだけ素晴らしい人間であったかは、アウェ− での鳴り止まない歓声と、暖かい声援に表れていた。 「ホ−ム&アウェ−」 言葉としては知っている方も多いかと思うのだが,日本に、例えばJリ−グでこれが定着するまでには、まだ 相当の時間がかかるだろうと推察される。 簡単に言ってしまえば,「ホ−ム至上主義」 それも「徹底的に」という注釈がつく程の。 それは,ゲ−ム前の選手紹介を見ても明らかだ。 ゲストチ−ムの紹介は非常に御座なりで,どうでもいいように名前が呼ばれていくのだが、ホ−ムチ−ムの 紹介の時には、ハイテンションで、様々な趣向も凝らされた中、観客も巻き込んでの、さしずめお祭り騒ぎ的 様相を呈している。 そしてそのままゲ−ムへと雪崩れ込んでいくのだ。 最強を誇っていたブルズ時代のジョ−ダンでさえ,どんなに華麗なプレ−を見せようと、ショットを決める度に、 大ブ−イングがおこったものだ。 そう,どんな偉大なプレ−ヤ−であっても、ホ−ムチ−ムの選手以外は全て憎むべき敵なのである。 それが,今回は全く当てはまらない。 ある種,引退興行のようにもなったジョ−ダンの最後の勇姿を瞼にしっかり刻み付けようと、どこの土地でも 観客は集まり、それも驚く事に、アリ−ナの収容人員を上回る数字を記録し続けていったのだ。 最終戦のシクサ−ズの本拠地・フィラデルフィアでも,試合前、ジョ−ダンを称えるセレモニ−が開かれた。 それ程彼は,「特別な存在」であり、「超ス−パ−スタ−」であり、まさに「神」と呼ばれるに相応しい人間だった・・・ 残り時間が2分を切っていた。 プレイが途切れたところから,堰を切ったように、この日5度目の「WE WANT MIKE!!」の大合唱が始まる。 ウィザ−ズがタイムアウト。 今度の声援は鳴り止みそうにない。 ダグ・コリンズHC(ヘッドコ−チ)がジョ−ダンに何か言っている。 すると,おもむろに彼が、着ていたジャ−ジを脱ぎ始めた。 観客のボルテ−ジが一気に頂点へと翔け上がっていく。 プレイ再開。 ジョ−ダンがボ−ルを持つ度,彼のショットを期待する声援が高まる。 しかし彼はボ−ルを回す役に徹している。 その時,シクサ−ズのスノウが、ジョ−ダンにファウル。 彼にフリ−スロ−の2投が与えられた。 その瞬間,そこにいる全ての人が知っていた、いや、テレビ画面を食い入るように固唾を呑んで見守ってい た全ての人も知っていた。 スノウが,する必要のないファウルをした事を。 こうして,「神」はラスト・ショットに臨んだ。 まるでアリ−ナ全体が発光しているかのようなフラッシュの洪水の中、ジョ−ダンは、今までと同じように、 淡々と2投を沈めた。 そう,誰もが彼のショットを放つ姿を見たかったのだ。 彼の最後の勇姿だった。 ベンチに戻る彼に,観客も選手もコ−チも、スタンディングオベ−ションで迎えていた。 試合はまだ終わったわけではなかったが,いつまでもいつまでも、スタンディングオベ−ションは終わる気配 を見せなかった・・・ 試合後のインタビュ−で,ウィザ−ズの(HC)ダグ・コリンズは答えている。 「あの時,マイケルに私の顔を立ててもう一度コ−トに戻ってくれないかと頼んだんだ」と。 もしあそこがホ−ムであったのなら,ジョ−ダンはもっと早くコ−トに戻り、積極的なペネトレイトも見せてくれ ていただろう。 しかし,アウェ−であった事が、逆に彼の凄さを物語る伝説の一つとして永遠に刻み付けられる事になったの ではないだろうか。 最後に,ジョ−ダンのデビュ−戦の相手がこのシクサ−ズであった事を記しておこう。 全盛期,彼を止める事が出来るプレ−ヤ−は誰も存在しなかった。 今が「旬」と言われているプレ−ヤ−の中にもいないだろう。 もしかすると,彼がそうだったように、彼を凌ぐようなプレ−ヤ−が現われるかもしれない。 しかし,「神」と呼ばれるのは、今までも、これからも、マイケル・ジョ−ダン、その人だけだろう。 数多くのプレ−ヤ−に,多大な影響を与えていたジョ−ダン。 試合後のインタビュ−でシクサ−ズのラリ−・ブラウンHCが言っていたように、彼の背番号「23」が、NBA リ−グ全体の永久欠番にならん事を願ってやまない・・・ 2003/4/29 19:55 「自宅」にて |
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