浜昼顔咲いていた


 その場所が好きだった。

茅ヶ崎と江ノ島のちょうど中間地点。
砂浜の手前側に,それは点々と広がっていた。
いつもその辺りに来ると,チャリンコをゆっくりと転がしたり、しばし止まって眺めていたりしたものだった。
「浜昼顔」
可憐な,白と薄桃色の小さなその花は、いつも6月頃に咲き始め、夏の風物詩の一つとして、僕の初夏から
盛夏を彩ってくれていた。
浜昼顔達の向こうに,強烈な陽射しを受けている海が見える。
噴き出す汗が滴り落ちるのもかまわず,僕はそれらの風景を見つめている・・・

そういえば,東海道線に乗っていても「昼顔」達に会う事が出来る。
大船を出た辺り,線路と線路の間に群生している場所があるのだ。
その様を見る度に,僕は心が穏やかになっていくのを感じていた。
浜昼顔しかり。

いつからだろう,その風景に出会えなくなったのは。
気がついたら,その浜から「浜昼顔」の姿が消えていた。
あれだけ咲き誇っていた「浜昼顔」が,消えていた。
僕は今夏,まだ海に出ていない。
しかし,またいつもの夏と同じようにサイクリングロ−ドを走るだろう。
そして淡い期待感を膨らませながら,あの砂浜を目指すだろう。
安堵の溜息を漏らすのか,それとも落胆の思いに沈むのか。
どちらにしろ,僕の夏の記憶には、「浜昼顔」でうめられた、あの砂浜の風景が広がっている。
でも,いや、それでも僕は海に出続けるだろう。
変わるものと変わらないものが共存する景色の中に,自分を溶け込ませたいと願いながら。

「浜昼顔」は咲いている,きっと、永遠に咲いている・・・


2003/8/6(水)17:30 茅ヶ崎「ドト−ル」にて


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