「Dr,コト−診療所」原作者への書簡


 はじめまして、中原茂と申します。

ドラマを拝見させていただいた次の日、いてもたってもいられず、原作を全巻購入させていただきました。
僕はドラマも原作も、一瞬でファンになりました。
どちらにも「良さ」があって・・・(それは先生の作品がしっかりと創られているからこそだと思うのですが)
原作とドラマがこのようにうまく融合している作品は、近年、稀、いや、存在しなかったのではないでしょうか。
第一話を見た時の何ともいえない気持ちは今でも憶えています。
このサイトには、10巻の巻末に載っていた、時任三郎さんのHPのリンクからこさせていただきました。
時任さんの撮影日記も興味深く読ませていただいたのですが、あの方はきっと、裏表のない、自然体で、
そのままの方なんでしょうね。
時任さんもおっしゃられていますが、吉岡さんは素晴らしいですね。
勿論、それは脇を固める共演者の方々にも言える事ではあるのですが。
吉岡さんが、もう既に「コト−」であるように、そこに「生きている」と感じられるのは本当に凄いと感嘆して
しまいます。
実は僕も、時任さんとは、幹の部分では同じ仕事をしています。
僕の場合は「声優」なんですが、時と場合によっては、「役者」と呼ばれる事もあれば、「ナレ−タ−」「語り手」
と呼ばれる事もあります。
今回、何故こんなに自分を、皆さんを「コト−」が引き付けて離さないのかという事実に思いを巡らせてみた
んですが、一つには「コト−」の人に対する真摯さがあるからではないのでしょうか。
そして、先生の作品に対する真摯さがあるからではないのでしょうか。
真摯に正直に向き合っているからこそ、その様が、人の心に、琴線に触れてくるのではないのでしょうか。
作品中のコト−の言葉、「病気を見るんじゃない、人を見るんだ」に、僕は常日頃自分が大事にしている
思いである、「役を演じるのではなく、その人を生きるんだ」をだぶらせていました。
しかし、「コト−」に触れるにつけ、「俺は真摯に、正直に、仕事と向き合っているんだろうか」という考えが頭を
もたげ、今の自分の状態や感性というものをもう一度しっかりと見つめ直さなければと思ったりしています。
そんな気持ちを喚起させてくれる作品に出会えた事、先生に感謝しなければいけませんね。
単行本を全巻揃えたのは20年振り位になります。
前の作品は、「北の土龍(もぐら)」という、生きるのが下手で不器用な主人公の少年「堂本繁」の成長を描いた
ものでした。
まだ若かった僕は、その物語に心を震わせ続けていました。(ちなみに今僕は42歳です、先生と2つ違いですよね)
でも、今回はそれ以上の衝撃かもしれません。
衝撃と言っても、「深く」「静か」なもので、「心がざわめく」といったらいいんでしょうか・・・

それから先生のある日記を読んでいて思った事があったんです、「この方いい方なんだろうな」と。
あるパロディ番組を見ていて、吉岡さんが侮辱されているようでチャンネルを変えたという、あれです。
「テレビなら何をしても許されるのか」「テレビに出ているから偉いのか」等、マスコミ関係の人間に勘違
いしている人間が多いというのは全くもって情けない話しで、僕には理解しかねます。
もっとも、そうではない方も大勢いらっしゃいますが。
僕は「声優」という仕事をしていて、先生は「漫画家」という仕事をされている。
「サラリーマン」や「八百屋」や「花屋」や「お米屋さん」等、様々な仕事があって。
仕事という認識では、みんな横一線だろうと、僕は思っています。
そこを踏み違えたら、こういう僕等のような仕事は特にやってられないだろうと・・・
何か偉そうな事を書いてしまい申し訳ありません。
もしかしたら自分が知らない内にそうなってしまっているかも知れない訳で、そうしたら自分は、今の仕事を
続ける資格は全くないのだろうと、そんな考えが頭をよぎったりしてしまうものですから。

「思い」は伝わるものだと信じています。
文字から、絵から、写真から、映像から、声から、そしてその人自身から・・・

最後になりましたが、長々と書き連ねてしまった事、お許し下さい。
そして、何かお伝えしたい事が色々とありすぎてまとまりのない文章になってしまった事、併せてお許し下さい。
はじめは掲示板に書かせていただこうかと思っていたのですが、内容を考えた末メ−ルにさせていただきました。
あと2回となったドラマと、原作の次巻を楽しみにしています。
これからもお体には十分気をつけて、良い作品を生み出していって下さい。
それでは失礼いたします・・・


2003/9/3深夜 自宅にて                  中原 茂


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