トンビが鳴くカフェ


 「やれやれ・・・」

目頭を押さえながら窓の外を見遣る。
レポ−ト用紙はまだ半分も埋まっていない。
今日はここに,直筆メッセ−ジの清書に来た筈なのに、眠気に襲われ続け、作業は遅々として進まなかった。
予定を変更して,今日中にあげなければならない原稿チェックを先にする事にした。
一,二行を読んだところで,「こいつは厄介だな」と思っていた原稿だった。
こういった予感は当たるもので,チェック項目が多くなるのは必須なのだ。
思った通りだ。
所々の細かいチェックだけなら口頭で済ませられるが,あきらかに長文の直しになる部分が三箇所程
あったので、そこはメ−ルにして送るという方法を取ることにした。
しかし,直しが多くなってしまった。
あの時のインタビュ−は約二時間という長いものだったのだが,内心は危惧していたのだ、「これをどの
ようにまとめてくれるのだろうと」
今までそれこそ数多くのインタビュ−を受けてきたが,「チェックをお願いします」と送られてきて、ノ−
チェックで返した原稿は、僕の記憶する限り一度しかない。
勿論,長文という事で、これには、短いものは含まれないが。
中々,インタビュ−が上手くて、それを文章に起こすのも上手い人間というのはいないようだ。
僕達の世界ではという意味でだが・・・

メ−ルを書きあげ,事務所に送信する。
「ピ〜ヒョロロ〜ッ」
と,先程からトンビの鳴き声が、この静かなカフェに響いている。
随分近くに来たのだろう,庭に出れば、その姿を間近に見る事が出来るかもしれない。

そういえば,昨日(さくじつ)、プリンタ−というものを初めて購入した。
仕事の為と誰もが思うだろうが,一番の理由は、ワ−ドパッドに書いた「直筆メッセ−ジ」をプリントアウト
する為なのだ。
この機種が発売された時は,その、スタイリッシュ且つ、コンパクトなボディに魅せられ、衝動的に買って
しまいそうになったのだが、「でも使わないか」と、やめていたのだ。
ここで自分でも呆れてしまうのは,仕事に、プリンタはもう既に必需品になっていたのにも関わらずだ。

今までは,ノ−トPCを左横に置き、画面を見ながら、清書を行っていた。
それが先日,「何かやりにくいなぁ」と思ったからで、ならもっと早く気づけよと思うのだが、急遽の購入と
なったのだ。

プリントアウトされた原稿を初めて見た時,「おおっ、美しい」と一人悦に入り、「これなら清書もしやすいな」
とご機嫌になっていたのは言うまでもない。

「さて,事務所に電話して、この原稿チェックを片付けよう」

携帯に向かう僕の耳に,トンビの鳴き声が遠ざかっていった・・・

2003/11/12 18:07  茅ヶ崎「ドト−ル」にて


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