七度三分の旅


 「長い旅に出ていたようだ」

そう,まさに僕にとっては、そんな感のする約一ヶ月だった。
といっても,こんな旅はもう二度と御免なのだが。

風邪が治りかけてきたなと思った矢先,そいつは突然やってきた。
初めはさほど気にしていなかったのだ,すぐ収まるだろうと。
しかし夜になると,8度以上に上がり、眠る事さえ出来なくなっていった。
身体は疲れている筈なのに,やけに意識がハッキリしていて、そのまま朝を迎えるという日々を繰り返し
ていたのだ。
日中は,7度3分位だったように思う。
それでも,平熱が低い僕にとってはある方なのだが、8度以上に比べると、案外心地良く感じられるから
不思議だ。
そんな時に限って仕事は詰まっているもので,熱と、時には格闘しながら、時には騙しあいながら、時には
肩を寄せあいながら、2週間程を過ごしていた。
何故そんなにほったらかしにしていたのかは,何かあるとすぐ病院に行く僕としては不可思議であった
のだが、とうとう業を煮やした僕は、病院の門を叩いていた。
医師の診断は,「自然に下がるのを待つしかありませんね」というものだった。
それまで,8度以上に上がるようだったら解熱剤を飲むしかないと。
実は翌週,別の病院にも行ってみたのだが、医師の見立ては同じで、ただ、こちらの医師は、血液検査
と尿検査をすぐ行ってくれて、「多分これだと思うのですが」と、ある病名を書いてくれた。
その時ですでに3週間が経過していて,「あと少しだとは思うのですが」と所見を述べてくれた。
そして,一ヶ月が過ぎようとしていたある夜、そいつは来た時と同じように突然来なくなった。
あれほど苦しんでいたのが嘘のように,眠れるようにもなっていったのだ。
日中の微熱もなくなった事は言うまでもない。

こんなに長く熱を出した事のなかった僕にとっては,かなりしんどい日々となった。
しかし不思議と,スタジオの中では、辛くなかった。
アドレナリンが駆け巡っていてくれたお陰で,相殺されていたという事なのだろうか。

微熱が続くと,それは微熱ではなくなる。
「案外気持ちいいなぁ」等と思った瞬間もあった,今回の、熱との日々。

「あぁ、久しぶりに温泉に行きたいなぁ」と呟く自分がいた・・・


2004/5/4(火)15:05 小瀧美術館内「Caffe Angeli」にて


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