「ラウンドするばい!!」〜ダンド−徒然日記〜(其の四)


〜ある日のダンド−君〜

 「こまったばい・・・」

ダンド−君は考えていました。
今月の宿題である「観察日記」をすっかり忘れていたのです。
優香に助けを求めようかと一瞬考えた彼でしたが,一昨日、優香との大事な約束をすっぽかして
「ダンド−のバカ!」とグ−パンチで殴られてからというもの、優香はダンド−と一言も口をきいてくれ
ません。
頭を抱えるダンド−君。
しかし,彼の身体と同じく、ちっちゃな脳みそくんでは、いい考えが浮かぶ筈もありません。

「そうや,その手があった!」
と,彼は突然、手を叩いたかと思うと、闘志溢れる瞳を輝かせてこう呟いたのです。
「観察の対象は何でもよかよね」と。

そして彼は自分のアイデアを翌日の日曜日,早速決行に移したのです。
彼が抱えているノ−トには,大きく、まるで歪んだ象形文字のような見た事もない文体で、こう
書かれてありました。
「新庄先生の一日」
何と,ダンド−君は、新庄先生を観察の対象に選んだのです。
新庄邸の庭の片隅で息を殺しながら,カ−テンで閉ざされた先生の部屋を見つめます。
「まだ6時かぁ・・・」
庭には様々な花が,朝露を浴びてキラキラと輝いています。
特に紫陽花は見事で,青・紫・ピンク等の色の饗宴に、ダンド−君は暫し心を奪われていました。
その内に彼はウトウトし始めてしまいました。
無理もありません,昨日の夜は、今日の事を色々と考えすぎて、緊張のあまり眠れなかったのです
から。
「塀を乗り越える時誰かに見られたらどうしよう」「あの怪獣みたいな犬がいたらどうしよう」
「新庄先生がいなかったらどうしよう」「お昼はどうしよう」「途中でトイレに行きたくなったらどうしよう」
「我慢出来なくなって漏らしたらどうしよう」「ハッ,そうたい、大きい方だったらどうしよう」
「そんな事んなったら,先生も、優香も、弘平も、二度と口をきいてくれんかも」
「そうたい!学校中の笑い者にされて、色んな所に落書きされて
・・・ゴルフがもう二度と出来なくなるかもしれん・・・」
ぐるぐると駆け回る沢山の妄想の為,彼は真っ赤に充血した目を見開いたまま、唸り続けていたの
です。
そして今。
夢の中で彼は再びその妄想達に苦しめられ,眠ったまま涙を流し続けていました。

「青葉くん・・・」

遠くから呼ばれているような気がして,ダンド−君は目を覚ましました。
「ここは,どこたい」
薄く掛かった靄のようなものが晴れていくと,何か体が柔らかいものに包まれているようです。
「あれ,オレは先生ん家の庭におった筈じゃ」
彼は自分がベッドに寝かされている事にはじめて気がつきました。
ゆっくりと顔を横に向けると,そこには新庄先生の笑顔が。
驚いて飛び起きそうになるダンド−君を,先生は優しく押さえて。
「まだ寝ていた方がいい」「でもその前に食事をした方がいいかもな」と、傍らに置いてあるワゴン
に目を遣りました。
ス−プの匂いを鼻に感じた瞬間,「グゥゥ、ギュルルルル〜ッ!」と彼のお腹の虫が盛大に鳴き出しました。
ダンド−君は,「恥ずかしかぁ〜」と心で叫びながら顔を真っ赤にしていました。
「あっ,それからこれは私が下書きをしておいてあげるから、清書は青葉くんが自分でやるんだよ」
と,傍らのノ−トに手をやりました。
「あの,先生、オレ・・・」
「そうだ,今日はせっかく来たんだから、あとで久しぶりにレッスンをしてあげよう、その前に、これを
食べたら一眠りするんだ、いいね。」
そう言うと,先生は、静かに部屋を出て行きました。
食事を摂ろうと体を起こしたダンド−君は,自分がパジャマ姿である事に気づきました。
そして朧な記憶が少しづつ蘇ってきたのです。
揺り篭に揺られていたような感覚は,先生が自分を抱えて運んでくれていたのだという事。
服を着替えさせてくれたのも先生で,掌に残る暖かさは、自分が目覚めるまで先生が手を握って
くれていたのだという事を。
そういえば,夢の中で、誰かの手を確かにギュッと握っていたのです。
広い窓の向こうに,ダンド−君が潜んでいた庭が、明るい陽射しの中に眩しく見えています。
何かキラキラと輝いているなと思ったら,それはどうやらスプリンクラ−の撒き散らす細かな
水の欠片のようで。
「あっ」
と思った彼の眼に,綺麗な小さな虹が映っていました。
深呼吸を一つした彼は,もの凄い勢いで、食事を開始。
「今日は先生に教えてもらえる」
その嬉しさを噛み締めながら,彼は食べ続けていました。

そう,ダンド−君には、先生に教えてもらいたい事が、山ほどあったのです。

もう彼の頭の中には,ゴルフの事しかありませんでした・・・


2004/6/20(日)14:49 茅ヶ崎市美術館内「喫茶・Pino」にて

PS:「ダンド−」とは,この時僕がレギュラ−出演していた、ゴルフアニメ
「DANDOH!!」の事で、この「ラウンドするばい!!」は、そのAR現場やそ
の他諸々の事を赤裸々(笑)に語った、フィクションとノンフィクションが入り混
じった、掲示板に不定期連載されていたものなんです・・・


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