クリスマスだからね・・・ |
「ねぇ・・・ねぇったら!」 「えっ・・・」 「もうっ・・・あたしの話、今、全然聞いてなかったでしょう」 「あっ,ご、ごめん・・・」 「まったく,楽しみにしてた誕生日プレゼントも買い忘れたみたいだし、今日の貴方、何か変よ」 「もう苛めないでよ,ホント悪かったよ」 頬を膨らませた,少々おかんむり気味の君の横顔に向かって、僕は、そう呟いていた。 今日は12月25日。 そう,一年に一度だけ訪れる特別な日。 君の誕生日でもあり,クリスマスでもあるこの日。 付き合い始めて三度目のこの日。 一度目は,僕に急な出張が入り、祝う事が出来ず、二度目は、君の父方のお祖母さんが突然倒れられ て帰らぬ人となり、祝うどころではなかったのだ。 そして三度目の今日は,こうして横浜の夜景を見下ろしながら、ホテルの最上階にあるレストランで、 君とディナ−を摂っている。 「頼むから,もう機嫌を直してくれよ。ここのレストランをリザ−ブするのだって大変だったんだから」 「それは分ってるわよ。クリスマスにここを取るのが大変な事ぐらい」 そう,ここをクリスマスに予約出来た事は、奇跡に近かったのだ。 僕はあらゆるコネを頼り,八方手を尽くしたのだが、全く駄目で、仕方なく違う店をリザ−ブしようとして いた矢先、飲み友達でもあるお得意さんから突然譲られたのだ。 土壇場になって休みが取れたので,海外でクリスマスを過ごす事にしたから、と。 「・・・・・」 「どうしたのよ,さっきから腕時計ばっかり気にして」 「いっ,いや、そんな事・・・ないよ・・・」 「い〜い,貴方は、ここっていう時にはいつも・・・」 と,彼女が喋り始めた時,生ピアノの演奏が変わり、掠れ気味のジャジ−な歌声が静かに響いてきた。 「ハッピバ−スデ−・トゥ〜ユ〜・・・」 「あらっ,あたしと同じで、今日、誕生日の人がいるのかしら?」 そう言う君の後ろに,ワゴンに載せられたホ−ル・ケ−キが運ばれてきた。 「・・・ディア〜、〇〇〇〜、ハッピバ−スデ〜・トゥ〜ユ〜・・・」 「えっ・・・」 「誕生日,おめでとう」 「ほらっ,ロウソクの炎を吹き消して」 君が吹き消すと,店のお客さん、スタッフから「おめでとう!」の声と、暖かい拍手が沸き起こった。 「ウソッ,何よ、ビックリしちゃったじゃない!」 「それは良かった,大成功で」 「あ〜,だからさっきから時間ばかり気にしてたのねぇ」 「もうドキドキしたよ,バレたらどうしようと思ってさぁ」 「・・・あのぉ,ごめんね。ずっとプレゼントの事で責めてて」 「ウンウン,気にしないで」 そう,だって、僕は君が喜ぶ顔を見られるだけで嬉しいのだから。 「ねぇ,デザ−トを食べ終わったら、部屋でゆっくり飲まない?誕生日の人には、サ−ビスで、シャンパン のボトルとフル−ツがついてるんだって」 「うん」 「実はもう部屋に運んで貰ってるんだ」 「何よ,今日は随分用意がいいじゃない」 「まぁ・・・クリスマスだからね・・・」 「じゃあ,行こうか」 僕は自分の心臓の鼓動が高鳴り始めるのを聞いていた。 何故なら,君へのプレゼントのメインディッシュは、あるものの上で、静かに部屋で待っているからだ。 そのあるものとは,北海道・帯広から取り寄せた、小さめのブル−・スプル−スの木。 シンプルな電球だけに飾られたそれは,きっと暖かな光で,君を迎えてくれるだろう。 特別な日を彩る,君だけのクリスマス・ツリ−として。 そして,今日は僕にとっての、いや、二人にとっての特別な日になる筈なのだ。 部屋へと向かう廊下を歩きながら,僕はそんな事を考えていた。 ツリ−の輝きよりも一際眩い光を放つものが,そのトップにある。 「婚約指輪」 それを見つけた時,君はどんな表情を浮かべるのだろう。 カ−ド・キ−を差込,恭しく君を部屋に招じ入れながら、僕は君の背に語りかけていた。 「ここから僕達の第二章が始まるんだ」 「このクリスマスを君だけに・・・」と・・・ 2004/12/30(木)17:41 茅ヶ崎「スタ−・バックス」にて |
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