茅ヶ崎に降る雪 2005


雪が舞っていた。

コ−トの袖に落ちる雪達を見ながら「雪眼鏡を持ってればなぁ」と一人ごちていた。
「雪眼鏡」とは,その名の通り、雪を見る為の、雪の結晶を見る為のもので、小さな雪だるまの形をして
いるそれの胴体の部分にレンズが付いているのだ。
それを僕は1月の帯広行きに伴っていたのだが,雪に降られる事がなく、彼(彼女)の活躍する場面は
とうとう訪れず、次の雪のシ−ズンまで、又、彼(彼女)は長い時を、僕のデスクの中で再び静かに過ご
す破目となった。
そう「雪眼鏡」は,まだ本来の使い方をされていないのだ。
だから尚更思ってしまったのだ。
そんな思いの中,茅ヶ崎市美術館までの道のりを雪を纏いながら歩を進める僕の脳裏に、淡く浮かんだ
言葉があった。
「茅ヶ崎に降る雪」
何年か前の同じ時期,雪がチラホラ舞う中、「ド−ヴィル」までの道程を、ショ−ト・エッセイで現わした事
があったのだ。
その時は本当にチラホラであったのだが。
ここの喫茶室から,ミルクティ−を飲みながら、静かに舞ったり、吹雪いたり、時には止んだりしている
雪達を眺めながら、一つとして同じものなどない「雪の結晶」に思いを馳せてみる。
「んっ・・・」
まるで,誰かが空のどこかにいて降らせているのではと疑ってしまいたくなるように、雪が多く落ちてく
る瞬間がある。
まるで舞台の天井から降ってきているかのようなのだ。
しかし,暫くしてPCの画面から顔を上げると、ゆっくりと落ちてきていたりするのだ。
帰りも,僕は雪達を纏いながら、雪達とお喋りをしながら駅までの道を、ゆっくりと辿るだろう。
だって,ここで雪が舞う事など、今となってはめったにないのだから。
「雪眼鏡,ごめんな」

舞う雪の中,その微笑ましい姿が雪の結晶を映しだす様が、僕の脳裏に揺れていた・・・


2005/2/26(土)15:53 茅ヶ崎市美術館内・喫茶室「Pino」にて


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