往く雲の如く 【レザ‐を巡るエッセイ&スト‐リ‐】


〜オベリスク〜


僕にとって,レザ‐を語る上で、外せないブランドがある。
「オベリスク」
此処のレザ‐ジャケットとの偶然の出会いが,僕のレザ‐へのこだわり度を確実に加速させていったのは
間違いない。
あれはもう3〜4年も前の事になるだろうか・・・

その日僕は,横浜のデパ‐トを訪れていた。
駅の側が売り文句のあそこだ。
目星をつけていたショップ数店を廻り,近頃親しくなったシュ‐ズショップの店員と靴の話をした後、帰る前に
トイレに寄ろうと移動を開始した。
「んっ?」
その時,小物売り場の向こう,ジュエリ‐ショップの壁に何か掛けられているのが目に入った。
近づくと,レザ‐ジャケット&パンツの組み合わせが、二種吊るされていた。
はじめはディスプレイかと思ったのだが,店の人に聞くと売り物だという事だった。
しかし何と斬新なデザインであろう。
僕の目を引いたのは左側のジャケットだったのだが,右側の品にも興味が沸いていた。
当時僕は,10万円以上の物は、今よりも収入があがり、余裕を持って「これなら」と思えるようになるまで
は絶対に手を出すまいと心に決めていた。
タグを返して見ると,そこには10万以上の文字が。
「あちゃ〜こんなにするんだぁ」
試着を考えていた僕は,その時点で諦め「いいんだけどなぁ」という心の声に少々未練を残しながらも、足早
に家路へとついたのだ。
それから一週間程がたったある日。
僕は行きつけのショップから,注文していた品が入荷したとの連絡を受け,再びそのデパ‐トを訪れていた。
「まだあるかな?」
品物を受け取って,そちらの方に視線をやると、真っ先にあのジャケット達が目に飛び込んできた。
僕は何か居ても立ってもいられなくなり,足早にジュエリ‐ショップを目指すや、まず一番気になっていた
ジャケットを羽織らせてもらっていた。
見た感じは良かったのだが,着た感じがどうも違う。
というか,ハッキリ言って自分に似合わなかったのだ。
「ん〜っ・・・」
と唸りながら,試しにもう一着の方も羽織らせてもらう事に。
「・・・」
不思議な事に,これが何かピッタリだった。
形はちょっと燕尾服に似ているのだが,このジャケットの最大の特徴は、ボタンの代わりに、金具と金具
(このデザインがまたいい)を合わせて前を留める(三箇所)という手法を取っている点だろう。
斬新さでは先程のジャケットだと思っていたのだが,着比べて見ると面白いもので、印象は逆転していた。
こちらの方が,シンプルさの中に斬新さが同居しているようなのだ。
勿論,人それぞれで印象は変わってくるのだろうが。
襟元のブランド名を見る。
「オベリスクか・・・」
ショップの店員に聞いたところ,オベリスクの商品はほぼ一点物で、扱っている他店(二店舗ほど)に問い
合わせてもらったのだが同じ品はないという回答で、工場は海外にあり,ショップもないという話だった。
工房があれば,僕はそこを直接訪れてみようと思っていたのだ。
ジャケットに何度も袖を通す。
表・裏,表・裏と、それこそ穴が開くほど見続けていた。
その内に僕の中の「購入ゲ‐ジ」がMAXに。
暫しの逡巡の後「これいただけますか」と店員に言っていた。
レザ‐パンツも非常に気に入っていたのだが,サイズが合わず(ワンサイズ小さかった)断念した。
カ‐ドで精算しながら「買っちゃったよぉ!」と,興奮とある種の後ろめたさに包まれていたのは事実だ。
そして家に帰りノ‐トPCを開けるまで全く思わなかったのだ「検索」するという行為を。
「ショップはないって言ってたのに」
画面には,あるセレクトショップの名前があった。
場所をしっかりと頭に入れた僕は,次の日、仕事を終えた足で、早速そのショップを目指していた。
ここが一番多く入っているとの言葉通り,様々な商品が置いてあったのだが、先日購入したジャケットはなく、
店員にその形や色などを説明しても、そういったタイプは見た事がないので「今度是非着てきてください」と逆に
お願いされてしまった。
レザ‐パンツは同じ物があったのだが,同サイズであった為諦めていたのだが、その店員の「一度お履きに
なってみたらいかがですか?」という声に促されて「せっかく来たのだから」と駄目もとで試着してみる事にしたのだ。
すると,少し窮屈だが履けたのだ。
これには自分が一番驚いてしまった。
その後,僕が即そのパンツを購入したのは言うまでもない。
それ以来、時々そこを覗いては多様なブランドの品にも触れるのだが、結局は「オベリスク」に一番心を
奪われていたようだ。
現在僕が所有している「オベリスク」製品は,レザ‐ジャケット2着・レザ‐パンツ3本・デニム(レザ‐もワンポイントで
使われている)パンツ1本となっている。
少ないと思われるかもしれないが,僕はコレクタ‐になるつもりはないので、このラインナップには現段階では
満足している。
そして今持っているデザインの物はもう二度と手にする事が叶わないので,あの時に思い切って買っておいて
正解だったんだと今では思っている。
(デザインはどこもだいたい,年々変化させているので)
そういえば最近は「オベリスク」を手にしていない。
今シ‐ズンの最新作もそうなのだが,ここ数年は僕が「いい」と思うベクトルとは離れてきているようなのだ。
でも気になるのだろう,時々はショップに顔を出すようにしている。
先日はショップ奥にある「VIPル‐ム」なるところに案内していただき,数々の「逸品」達を見せていただいた。
いくつか「いいな」と思える品があったのだが,その中でも、あるロングコ‐トに最後まで後ろ髪を引かれていた。
「こいつは開店以来ここにありますので」
もし今度自分がこれを購入しようと思い再度訪れた時まだ残っていたならば「こいつは僕の元に辿り着くのが
運命だったのだろう」
そう思うに違いない。
そんな思いに浸りながら僕はショップをあとにしていた・・・

「日常の贅沢」
これは「オベリスク」のコンセプトだ。
ここと出会って僕の中のレザ‐に対する意識が変化した。
というか,レザ‐の事など殆ど考えた事がなかった自分が、急速にレザ‐信者へと傾倒していく大きな
キッカケとなったのは間違いない事なのだ。
日常に少しだけ非日常を持ち込むことによって,生きる事・生活する事に「潤い」がもたらされるのなら。
人生には「カッコつける」瞬間も必要なのだ。
それも出来るだけ自然であれば尚「格好良さ」が際立つというものだろう。
それを楽しむ己を見つけるという事もまた大切な事で。
ここから僕は,様々なレザ‐達と出会うことになり,僕という人間を語る上で「レザ‐」は非常に大きな位置を
占めるようになっていった。
と言うか,レザ‐抜きにして僕という人間は語れないと言い切ってしまっても過言ではないだろう。
随所にアルチザン(職人)的な匂いを漂わせ,それを色濃く追い求めている「オベリスク」
日々変化する日常の中で,己の千変万化する心模様とも照らし合わせながら、これからも、こことは
付き合い続けていくだろう。
離れたり,近づいたりを繰り返しながら。

今日も,レザ‐達に包まれた、僕の「凛とした」一日が始まる・・・



2005/6/29(水) 18:45 「駒沢大学駅付近のカフェ」にて


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