往く雲の如く 【レザ‐を巡るエッセイ&スト‐リ‐】 |
〜エンリ−ベグリン〜 小物類に凝っていた時期があった。 何かの周期でもあるのか,時々、集中的に収集癖が活発化する事がある。 その時は,カ‐ドケ‐スやウォレットやパスケ‐スや文房具類を毎日のように追いかけていた。 オ‐クションでも随分買い込んだような気がする。 某デパ‐トの一大バ‐ゲンにも足を伸ばし,彼の「聖地」と呼ばれる場所で、人波に揉まれながらも10数点 をゲットしていたものだ。 各ファッション誌に必ず目を通し始めたのもその頃かもしれない。 その「名刺容れ」を目にしたのは,そんな雑誌を捲っている時だった。 名刺ケ‐スは新しい物を既に購入して使っていたのだが,僕はその逸品から目が離せなくなってしまっていたのだ。 「エンリ‐ベグリン」 「ケ‐ス」というより「包む」という感じのその品(レザ‐)は,写真からでも何ともいえない雰囲気を醸し出していた。 価格は確か3万円強で「高いなぁ」と思ったのだが,すぐに載っていた直営店の番号をプッシュしていた。 色は何種類かあるという事と,ショップの場所を聞き、次の日早速訪ねてみる事にしたのだ・・・ そのショップは,表参道を裏に入った住宅街の只中に、存在感を漂わせながらもヒッソリと佇んでいた。 堅牢な木造の外観が,ブランドイメ‐ジを無言で語っているようだ。 開け放たれているドアから中に入る。 服や鞄,靴など、手作りの匂いを色濃く漂わせた品達が視界を埋めている。 雑誌の名前を言い「名刺容れ」を見せていただく。 「これはいいですね」そんな言葉が口をついて出ていた。 書類容れをそのまま小さくした,と言えば分っていただけるだろうか。 留める時は,先にビ‐ズの付いた紐をグルグルと巻いて留めなければならないので,少し面倒ではあるのだが、 そこがまた愛しくなってしまうような、そんな逸品であった。 色は,薄い茶色というか、薄い黄土色というか、それに一番似合っているだろうと自分が思う色を選んでいた。 ハッキリ言って,名刺ケ‐スにそんなお金を払うなど自分にとっては信じられない事ではあったのだが、僕は そいつが気に入り連れて帰る事にしたのだ。 包装を待つ間,ショップの女性に「男性の方の商品はまだ少ないんですが,よろしければ店内をご覧になっていて下さい」 と言われ一通り巡ってみた折,一点のショルダ‐バッグに吸い寄せられるように近づき、手に取っていた。 「それはバッファロ‐の角を留め具に使っているんですが,人気があって、最後の一点なんですよ」 カウンタ‐から歩み寄りながらスタッフが説明してくれた。 シルエットも素晴らしく,レザ‐使いも手が込んでいて、肩に掛けた感じもシックリするものだった。 「年と共にその表情の変化を楽しめる一生物ですよ」とはスタッフの弁。 色も「茶系」なので,尚更だと言う話だった。 掛け方を何度も変えながら,中身と外見をシゲシゲと見詰めながら、最初は「こんな鞄もあるのか」程度だった 自分の気持ちが「これは買わないと」という気持ちに変化していく様を不思議に思いながら、僕は非常に高価な その鞄を、やはり家に連れて帰る事を決断していたのだ。 鞄にまさかそんな大金(約15万)を投じるなど,僕は自分自身が「乱心」してしまったのではないかと心配に なってしまった程だ。 付け加えておくが,ここの職人さん(イタリア)は、全ての工程を一人で完遂するそうだ。 革の選定から,染め、縫いと、年毎によって変わる革の質を見極め、自分が由とするものしか作らないそうだ。 実はその日,もう一品、携帯ケ‐スも所望していた。 それは,ベグリン専用として、いつも鞄の中に居る。 プラス,ベグリンのシンボルとしてどの品にも必ず縫われている「オミノ」(小さな人という意味らしい)が、何とも可愛く、 又、いい存在感を示しているのだ・・・ 暫くスタッフと革の話をした後,僕はショップを出た。 もう既に陽は傾き始め,風が、来た時とは比べものにならない程冷たくなっていた。 薄着をしてきた事に舌打ちしながら,ロングレザ‐の前をかき合わせる。 身体は冷えていたが,心は温かかった。 「さて,暫くは節約しないとな」 そんな事を呟く僕の頬に,残照が束の間照りつけ、一陣の風と共に去っていった・・・ PS:2005年現在、セカンドバッグ(伊勢丹別注品)・CDケ‐ス・小銭容れが、仲間として加わっている。 2005/10/19(水)16:10 茅ヶ崎「スタ‐バックス」にて |
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