シ−バスに乗って


以前から乗ってみたい飛行機があった。
それが滑走路をゆっくりと滑っていく様を追いながら「中はどうなっているんだろう」と妄想を働かせていたものだ。
ただ自分が時々使う航空会社ではなかったので「浮気」と「ただそれに乗る為」という行動をおこさなければ,
実現は不可能な事ではあったのだ。
プラス,出来れば「必然」として乗りたいと思っていたので。
しかし,最近ではそんな思いを抱いていた事さえすっかり忘れかけていた。
そう,こんな身近に「それ」が存在している事を知るまでは・・・

或る晴れた日。
僕は久しぶりに横浜の赤レンガ倉庫を訪れようと,シ−バス乗り場に急いでいた。
別に急ぐ必要はどこにもなかったのだが,何故か僕の気持ちは急(せ)いていたのだ。
チケットを買い,既に乗船が始まっている「それ」に乗り込む。
シ−バスには「山下公園」に直接行く便と、インタ−コンチネンタルホテル脇の「ぷかりん桟橋」そして「赤レンガ倉庫」
を経由して行く便の二種類があるのだが、山下公園に直接行く場合でも、僕は直行便よりも経由便を好む傾向に
あるようだ。
理由は簡単,経由便の方が、ゆっくりとクル−ジングが楽しめるからだ。
波間に漂うカモメを眺めながら,僕は束の間だが満ち足りた時の流れに身を委ねていた。
心地良い揺れにまどろむ僕を乗せたシ−バスは,やがて左手に大桟橋を見ながら赤レンガ倉庫の船着場に近づいていった・・・

タラップを降り,赤レンガ倉庫を目指す。
ふと気になり振り向いた僕の目に「それ」は鮮烈に焼き付いた。
「ウソだろ,今乗って来たのがそうだったんだ・・・」
以前,気持ちよく海を往く「それ」を初めて見た時「こんな所にもいたのか」と思うと共に「これには絶対乗らないとな」
と強く思ったものだ。
離岸する様を見詰めながら「まぁ乗った事には変わりないんだから」
と,僕は自分自身を納得させるように呟いていた。
乗船する時に急いでいなければ気付いていたのかもしれない。
ペイントが施されていたのは,屋根と乗降口の逆サイドだったのだ。
遠ざかるその姿に僕は軽く手を振っていた。

「又なピカチュウ」

まるで初夏を思わせる陽射しの中,黄色がひと際鮮やかな光沢を放っていた・・・



2006/6/13(火)17:15 茅ヶ崎「スタ−バックス」にて


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