「ピンク&イエロ−」〜サイレントな夜〜




菜の花の黄色を揺らしながら列車が入線してくる。
ホ−ムで待つ僕の頭上には,見事なまでの薄桃色が溢れていた。
薄桃色と黄色の饗宴は,今の季節、そこここで見られるのだが、僕が一番楽しみにしている風景は、通勤途中の
東海道線沿線にある。
下に菜の花,上に桜というコントラストはとても絶妙で,一分でもいいからその場所に電車を止めて欲しいと
願ってしまう程だ。
先日ジョ−ジさんの店(エッセイ「ただ風の中で」参照)で飲んでいた時,スタッフが「丹沢では、山の上から
吹き飛ばされてきた風花が、桜と一緒に舞い落ちる光景はとても綺麗でしたよ」と話してくれた。
その幻想的な様を思い浮かべながら傾ける焼酎のお湯割りは,また格別な味とともに、僕に幸せな時間を
運んでくれたようだ。
しかしその夜は,随分ジョ−ジさんと話し込んだものだ。
外に出ると,透明な冷気が僕を包み込んだ。
風も止まった静かな夜に,満月に限りなく近い月が浮いていた。

地元の駅に降り,家路を辿り出した僕が、ふと立ち止まり見上げると。
見事な桜越しに,あの満月に限りなく近い月が見えていた。
やはり風はない。
心地良い酔いとは違う「何か」が僕を包み込む。
それが「何か」分らないまま,僕は暫くそこに佇んでいた。

僕の目の前を,桜の花びらが、ひとひら、舞っていた・・・



2007/4/3(火)14:03〜4月5(木)17:27 茅ヶ崎「スタ−バックス」にて


back Copyright 1999-2007 Sigeru Nakahara. All rights reserved.