Life






猛暑復活を思わせるような9月のある日。
僕は久しぶりに,鎌倉の若宮大路を歩いていた。
若宮大路は,由比ヶ浜海岸と鶴岡八幡宮を結ぶ南北に伸びた幅広い道路で、途中から真ん中には,段葛(だんかずら)
という、一段高いところに作られた、鶴岡八幡宮への参道がある。
そこは,春には見事な桜のア−ケ−ドとなり、名所の一つとなっているのだ。
噴き出す汗をタオルで時々拭いながら,ゆっくりと歩を進める。
そう言えば,最近は人力車が多くなってきた。
先程も「小町通り」に入って暫く行ったところで声を掛けられた。
気が付けば,そこここに、人力車とともに勧誘の人間が立っている。
以前は,土日・祭日にしか見掛けなかったのだが、今では平日でもよく見掛けるようになった。
「こんにちは!」
八幡宮へと入る信号のところで声を掛けられた。
彼の側には人力車が。
何故声を掛けられたのかはよく分らなかったのだが,どうやらそこを通る人には声を掛けているらしい。
でも「笑顔」で挨拶をされるのは気持ちのいいものだ。
思わずこちらも笑顔を返してしまう。
(ただ,誰に向かって言っているのか分らない挨拶は別だが)
信号を渡り,八幡宮には入らず右へ。
正面には「宝戒寺」の屋根。
ここを少し行くと目的の店が姿を現わす筈だ。
蝉の声が勢いを増した中,車もこの暑さに悲鳴をあげているように見える。
と・・・
「ここか」
HPで見た画像と同じ光景がそこにあった。
以前は「骨董品屋」だったと言う,こじんまりとした佇まい。
広く取られた窓。
入ると,左側に、小さなテ−ブルが3つと、席が6つ。
真っ直ぐ行った奥にふたりがけのソファとテ−ブルを挟んで椅子が2つ。
空いていたので,奥のソファ席に。
席は10席しかないが,狭い感じはない。
空間がゆったりと取られているからだろう。
ソファから通りを見ている内に汗が引いていくのが分る。
静かだ。
店内を流れるジャズも静けさの中に溶け込んでいるようだ。
ここの売りである,水出しのアイスコ−ヒ−を頼む。
ドリンクの他は,ケ−キが2種程。
ライブもたまにやっているようだ。
ノ−トPCを出す手を止め,暫し、ここの「時間」に身を委ねる事にする。
簡素な店作りにも好感が持てた。
開店して1年ちょっと。
店の電話は昔懐かしい黒電話だった。
車の往来の激しい通り沿いにある事を考えると,この「静けさ」は奇跡的だ。
本を開く。
「一軒増えたな」
僕が好きなここの地名である「雪ノ下」にとても相応しいカフェだと思った。

「Life」

カフェと自分の暮らしがシンクロしているような自分にとって,この店との出会いは必然であったのかもしれない。
そのコ−ヒ−は,たかが一杯なのか、されど一杯なのか。
いや,飲みたいから飲むのだ。
そこに行きたいから行くのだ。
意味を考える事も必要だが,本能に任せて単純に行動する事も大切なのだ。
どちらかが殆どを占め,どちらかがほんの少しを占める。
人は,一度は答えを出したと思ったどちらかを結局決めきれず、あやふやなその場所の行ったり来たりを繰り返しながら、
日々を生きていくのではないだろうか。

「雪の日にここで珈琲を飲みたいな」

僕の耳に,やけにハッキリ、時を刻む音が聞こえていた・・・



2007/9/16(日)15:33 藤沢「スタ−バックス」にて
      &
     9/16(日)17:42 茅ヶ崎「スタ−バックス」にて
      &
     9/19(水)00:26 「自宅」にて


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