春色より





一陣の風に振り向くと,桜の花びらが舞っていた。
見上げると,葉桜の間にピンク色が見え隠れしている。
「まだ咲いてる花があるんだ」
今年の桜は長く楽しめた。
入学式に桜が咲いていたなんて,随分久しぶりの事ではないのだろうか。
そんな事を考えながら,一片(ひとひら)の桜のはなびらを目で追っていた。
まるで初夏のような陽射しが,五感を心地良く刺激している。
ふと深呼吸するのを忘れていた事を憶いだし,胸いっぱいに春の息吹を吸い込んだ。
その中には,少し先の季節の香りもした・・・

初めて見る段葛(だんかずら)の桜は美しかった。
今迄「どうせ混んでるだろうし」と思い,桜の季節に鎌倉を訪なった事がなかったのだ。
それが急に段葛を歩いてみたくなり,鎌倉駅からの人ごみをガシガシと掻き分け、狛犬に軽く挨拶を交わし
桜のア−チの中に歩を進めた。
平日にしか来た事がない僕にとって,土曜日の鎌倉は、恐ろしい程に観光地の顔をしていた。
桜は,そんな事も忘れさせてくれる程見事だった。
「夜桜の段葛も風情があるだろうな」
以前「0467」が雪ノ下にあった時,全ての時が止まってしまったかのような凛とした冬の夜に、段葛を歩いて帰った
記憶がある。
月に煌々と照らされる中,聞こえてくるのは、自分の足音と息使い、そして鼓動だけだった。
立ち止まっていると,自分がまるでこの時の中に溶け込んでしまいそうな気がしたものだ。
「古都・鎌倉とは良く言ったものだ」
そんな事を思いながら,狛犬におやすみを言い、段葛を後にした。

「お茶にするか」
最初は「Life」に行くつもりだったのだが日本茶と和菓子が食べたくなり「蕉雨庵」に向かった。
そこは窓際の席から桜を愛でる事が出来るのだ。
「窓際が空いてるといいな」
少し霞の掛かった空を見上げ,僕は目を細めていた。

春色より,夏色になり、秋色、冬色となる。
その間,言葉では表せない様々な微妙な色合いが生まれてくる。

その全ては「春色」から始まるのではないのかと,この季節の中に立ち、僕は思う。

そう,春色より・・・



2009/4/22(水)15:38 茅ヶ崎「スタ−バックス」
    &
     4/22(水)18:07 自宅にて


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