もう一つのカフエ・エッセンスから見える風景 |
「ふ〜っ・・・」 手に息を吹きかける。 店を開店して初めて迎える「クリスマス」だった。 過度な装飾はせず,電飾を少し施した、常連が持ってきてくれたこぶりの樅の木を、奥に置くに留めた。 オ−ナメントは客が勝手に付けていった。 今ではいっぱしのクリマスツリ−になっている。 夜の帳が早く降りるこの季節。 店の中には,暖かな光が点滅している。 窓の外には白いものが見え隠れしている。 朝起きた時には一面の雪景色だったのだ。 夜中に,しんしんと降り始めていたらしい。 全ての音が吸い取られてしまったかのような夜の中,暖炉の薪が燃える音だけが、いやにハッキリ聞こえていた。 その隙間に柱時計が時を刻む音。 時々薪が崩れる音と,炎が爆ぜる音が店の空気を少し掻き回す。 冬は閉店の時間を決めない事にした。 雪を見た途端そう思ったのだ。 「ボ〜ンボ〜ン・・・」 という音に振り向くと,時計の針は21時を指していた。 突然凍てついた空が見たくなり,カウンタ−を出て外に出た。 キンと冷えた空気の中,見上げると遙か彼方の高みから、雪が規則正しく落ちてきていた。 掌に雪の結晶を認め「ふ〜っ」と息を吹きかけてみる。 じわ〜っと私の手に溶け込むように,それは急激に姿を失くしていく。 今日はこれで終いにしようかと札に手を掛けた瞬間。 「マスターまだいいかな?」 という陽気な声が掛かった。 「いいですよ」 闇の中から顔を出したのは,店に樅の木を運んで来てくれた、Oさんだった。 そしてその後ろからぞろぞろと3人程が現れた。 ほろ酔い気分の4人を店に招じ入れた私はもう一度空を見上げた。 右頬にじわ〜っとした感覚を味わった刹那、私も店に歩を踏み入れた。 「ブレンド4つね!」 カウンターに戻った私は,火をつけ湯を沸かし始める。 ツリーは変わらず暖かな灯りを揺らしていた。 静かな静かなイブの夜が,いつもと変わらず過ぎていこうとしていた。 そして初めて迎える雪の中での日々が,私の気持ちを少し高揚させていた・・・ 2009/6/5(金)14:30 茅ヶ崎「スタ−バックス」にて |
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