バ−の日々

その「バ−」を訪れたのは3年振り位の事だっただろうか。
知り合いから「ジャズライブをやるんですけど来ませんか」と久しぶりに誘いを受けたのだ。
狭い店の事,その日はドアを開け放し、外にもテ−ブルを持ち出して席が設(しつら)えられていた。
バ−の外看板が近づくにつれ,時々顔を出していたあの頃が懐かしく想い出される。
店のドアに手を掛けた時「あれ,中原さん、お久しぶりですね」と声を掛けられた。
振り向くと正面にマスタ−の笑顔が。
3年余りご無沙汰していたにも関わらず,マスタ−は僕の名前を憶えてくれていたのだ。
その瞬間,心にさざ波が立っていた。
生の「音」に酔いしれ,久しぶりに飲むシングルモルト「ジュラ」の優しさに包まれ、何人かの方と様々な事を語り合う内に、
時計の針は静かにテッペンを回っていった。
自分の許容量を超えて飲んでしまっていたのだが,とても気分のいいまま、僕は帰路につく事が出来た。
その夜以来・・・
僕は時々そのバ−を訪なっている。
他にも「地元」のバ−を何軒か開拓したりしながら。
先程のバ−にいる若いバ−テンダ−から,とても落ち着くオ−センティックなバ−も教えて貰った。
ホテルのバ−をそのままそこに現出させたような空間は,ゆったりとした流れと共にアルコ−ルの海に身を浸す
にはピッタリの趣を成しているのだ。
先日は,以前一度だけ訪った事のある小田原のバ−に,5年振りに足を伸ばしていた。
タクシ−で行くしかない距離にあるそこは,変わらぬ佇まいで僕を迎えてくれた。
ここの「シンガポ−ルスリング・ラッフルズスタイル」が絶品なのだ。
そこのマスタ−からは,彼が「世界一」と熱く語る、自分に指針を与えてくれたバ−テンダ−が経営するバ−を教えて貰った。
その人が創る「シンガポ−ルスリング・ラッフルズスタイル」を是非飲んで頂きたいと言われ。
彼曰く「至高の一杯」だそうなのだ。
僕は多分,いや、絶対に近日中に、そのバ−に足を伸ばすだろう。
他人(ヒト)の人生さえ変えてしまう「その一杯」に出逢うために。
最後に「シンガポ−ルスリング」は「ラッフルズスタイル」より,現在(いま)の形の方が好きだという愛飲家は多いようだ。
しかし僕は,酒に余り強くないというのもあるのかも知れないのだが「ラッフルズスタイル」の甘口の方が好みであるようだ。
何より「ラッフルズスタイル」を飲んでいると,その一時でも、まるで(見た事もないのだが)「ラッフルズホテル」のバ−カウンタ−で
飲んでいるような錯覚に陥らせてくれるような気がするではないか。
その方がとっても素敵な心持ちになるような気がするのだが。
そんな「夢見るカクテル」を,これからもドンドン味わっていきたいものだ。

「今宵はどこのバ−カウンタ−に留まろか」

「グラス」の中には無限の世界が広がっている。

その「無限」の世界の住人になりたいと,切に願う自分がいた・・・



2010/5/4(水)15:48 茅ヶ崎「スタ−バックス」にて。


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