サイクリング・ヤッホ−!

デビュ−は鎌倉でと決めていた。
目指すは「OKASHI0467」
駅を江ノ電側に降り「ロンディ−ノ」(1967年創業の老舗カフェ)でナポリタンを腹におさめ「よしっ!」と小さく気合いをいれた後,店の左斜め前にある銀行の横で、専用の鞄から折り畳まれて収納されていた「ブロンプトン」を取り出す。
家で出し入れは何度か練習してきていたのだが,不器用な僕は、まだまだスム−ズにはいかないようだ。
少しあたふたしながらも鞄をデイパックの如く背負い,サドルの位置を調節すると、前方を見、空を見上げて1つ深呼吸をした後、ペダルを漕ぎ出す。
「あれ」
っと見ると片側のペダルがまだ畳まれた状態だったのに気付く。
「あちゃ〜これ忘れやすいんだよなぁ」
セットし直し,今度こそとペダルを踏みしめ、僕はゆっくりと漂い出した。
今日は汗ばむ程の陽気だ。
休日という事もあり,鎌倉には人が溢れている。
光りも溢れている。
「OKASHI」への一本道を初めて奔りながら,道の両サイドに、様々なタイプのショップが点在している事に驚いた。
「そう言えばKさんが,最近ショップが増えてたって言ってたなぁ」
まだまだこれから増えそうだとも。
長谷方面から来る人,鎌倉から行く人。
大仏へも歩いてそれ程掛からないので,こちらから徒歩で行く人も多くいる。
特にこんな陽気の日は,ブラブラ歩くのが気持ち良いだろう。
勿論,僕のように自転車で漂うのも。
その内,道が緩やかな下りになり、漕がなくても「ブロンプトン」は気持ち良く滑っていく。
「あ〜楽ちん」
などと思っていたのだが,帰りが上る事になると考えると、途端に憂鬱な気分に包まれた。
「OKASHI」までもうすぐだ。
ここまで来ると,上りも下りも渋滞している。
「そう言えば大仏を最後に見たのは何時だっけ」
自転車を降り,歩道を歩きながら、そんな事を考えていた。
店が見えてきた。
「今度来る時は鎌倉一帯を奔り回るのもいいかもな」
店の脇で「ブロンプトン」を折り畳み,店へ入る。
前回来た時に店の中に置かせておいて頂く許可は取っていたのだ。
「わぁ,これですか、凄い!オシャレですね」とKさん。
得意げに話す僕。
上にあがるのも忘れ,暫し話し込む。
17番のケ−キを注文し席へ。
背負っていた鞄を降ろし「レザ−ノ−トPC」を取り出す。
外の陽射しはまだまだ元気だ。
「あっKさんに見せないと」と思い,レザ−ノ−トを手に席を立つ。

「ショ−トエッセイを1つ仕上げるか」

何せ今日はデビュ−なのだから。
階段を一段一段降りながら,自然に微笑みが浮かぶ。
「やっぱりここはいいな」
鎌倉の風をもっと感じたい。

新たに加わった「相棒」と共に,僕は季節の中を駆け抜ける。

そう・・・それぞれの風を感じながら・・・



2010/11/3(水)16:11 「OKASHI0467」にて


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