誕生日には靴を磨きに

久しぶりの「骨董通り」だった。

「一昨年の10月にクロムハ−ツを訪ねた時以来か」

「ブリフト・アッシュ」には新規開店早々足を運んで以来訪れていなかったので,2年強振りになる。
先程,これから行っても大丈夫な旨を電話で確認しておいたので、直行する事にした。
ただ,H君は出張中で留守にしているとの事だった。
15時頃には戻るらしく,シュ−シャインを施してもらった後「フィ−ゴ」など久しぶりのショップを冷やかしたり、ランチを摂った後、再び訪なおうと考えていた。
彼に見せたいものも持参していたので。
目印は「ポ−ル・スミス」
初めて来た時は少し迷ったのだが,今回は迷うことはなかった。
あの時との違いは,ショップ名が、分かりやすく目に留まった事だろうか。
右奥の階段を上ると,左側に扉を開放したショップがある。
店に足を踏み入れると,懐かしい匂いに包まれた。
「そう・・・この匂い・・・」
女性1名・男性2名のスタッフが僕を迎え入れてくれた。
今回履いてきた靴は,僕が多分ブ−ツ好きになった最初の頃に惚れ込んで購入した「プレミア−タウォモ」の逸品。
担当してくれたのは,H君と共に「ブリフト・アッシュ」をオ−プンさせたスタッフの一人だった。
オ−プン時に来店した以来久しぶりであるという事や,H君とどのようにして出会ったかなど「カルテ」に書き込みながら話していると「ウエルカムドリンク」が出され、いよいよ、目の前、カウンタ−の向こう側で「シュ−シャイン」が始まった。
靴が「変化」していく様を,お喋りをしながら見られるというのは、とても新鮮な驚きに溢れている。
今は必ず「靴のカルテ」というものをお客さんに書いて頂くのだが,オ−プン当初は、その考えにも至らず、価格表さえ創るのを忘れていたそうだ。
「シュ−ビジネス」はニュ−ヨークが一番盛んな事や,イギリスに行った時には、思っていた以上に、靴を綺麗に履いている人がいなかった事、そのスタッフ(A君)が、趣味でステンドグラスを使った品を創っていて、その内、店にも置きたいと思っている事などなどを話している内に、僕の靴は、まるで魔法に掛けられたように、神々しい輝きを内側から発しているかの如く、とても美しい「逸品」へと昇華を遂げていったのだ。
「これは凄い・・・」
レザ−も,とても柔らかく暖かくなっていて、足がとてもスム−ズに入っていった。
そしてこの「表情」「輝き」は何と表現したらいいのか。
「誕生日に来て良かったです」
スタッフにそう礼を言い,H君が帰ってきたら連絡をしてもらう旨をもう1度確認し、店を後にした。
何度も何度も足下に目をやる度,目頭が緩むのが分かる。
世界中の人に「俺の靴を見てくれ!」
と叫びたくなる程だ。
骨董通りを闊歩しながら,気持ちが晴れ渡っていくのが分かる。

「誕生日には靴を磨きに・・・か・・・」

これから始まる僕の「50代」は,きっと輝きに満ち溢れている。
そんな,とてつもなく大きな「希望」も、僕は一緒に貰った気がした。

「来て本当に良かったな」
そう呟きながら「フィ−ゴ」に向うべく,僕は横断歩道を渡り始めた。
そして僕の携えて来た,世界にただ1つしか存在しない「逸品達」を見て、H君がどんな反応を見せてくれるかが楽しみだ。

「ハッピバ−スデ−・トゥ−〜・・・」
僕の中で,祝福の唄が、静かに、しかし、しっかりと、流れ初めていた・・・



2011/1/22(土)15:24 骨董通り「スタ−バックス」にて
          &
2011/1/22(土)22:29 自宅にて


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