「ブロンプトンレザ−カスタム」〜アメノスパッチオモデル〜

武蔵小杉からバスに乗る。
20数分後には,いよいよご対面だ。
「おもちゃみたいですよ」
仲垣君の言葉を憶い出す。
「どんなんだろう」
ワクワク感は限りなく「MAX」に近づいている。
先週位の週間予報では今日は「雨」だったのだが,幸い「曇り」に変わっていた。
バスを降りると,彼の工房はもう眼と鼻の先だ。
「久しぶりだな」
急く自分を落ち着かせながら,僕は「特別な場所」へと歩を進めて行った・・・

昔は一つ好きなブランドが出来るとそこにしか通っていなかった。
故に気に入る物がなければ購入には至らなかった。
それが何時今のような状態に変化していったのか。
今は同じブランドの物を続けて着用する事は殆どなくなっている。
ただ,購入しないとはいえ、好きなブランドなので、追跡は絶えず行う。
結果,好きなブランド及びショップは年々増加の一途を辿っているのだ。
プラス,ネット上も加味すれば守備範囲は膨大なものになっている。
そしてここ数年の顕著な例を挙げさせてもらうと「物」だけではなく「人」との結びつきが多くなってきた事だ。
特に「服飾」「飲食」「音楽関係」
僕はどうも「社交辞令」が嫌らしく「今度寄らせてもらいますよ」と飲みの席などで話した場合は,ほぼ100%の割合でそこに出向く傾向にある。
最初は行く気がなくても「行ってみるか」と足を運ぶ事も多いのだ。
これは単に「人が好きだから」なのだが「必然」に吸い寄せられているようにも感じられる。
僕が知り合いになり,お付き合いをさせていただいている方々は、皆さん本当に「心が豊か」なのだ。
だからその部分も含めて,僕は色んな方と積極的に関わっていこうとしているのかもしれない・・・

話を元に戻すが,僕が唯一購入し続けているブランドは「アメノスパッチオ」のみで、何故僕がこれほど惚れ込んでいるのかは自分にも良く分からないところがあるのだが、ただ一つ言える事は「オ−ダ−」がそんなに特別なものではないという事を分からせてくれたからなのかもしれない。
「距離」を縮めてくれたというか。
「普通」の「特別感」と言うか。
そこには,近年僕が拘っている「音にならない音が大事なんだ」に共通する「形にならない形が大事なんだ」という思いが色濃くあるからなのかもしれない。
目の前にある「形」だけに囚われない「琴線」に触れる見えない「形」
職人の心が最後の「エッセンス」としてじんわりと沁み込んでいく。
そんな「何か」を内包して生まれてくる作品達。
僕は僕が知り得る限りのレザ−職人の中で,仲垣君が、最高の職人だと思っている。
あれだけ「使い勝手」を考えた上での「デザイン力」を持っている職人はそうそういないだろう。(いや,いないかもしれない)
「鞄は鞄」であり「靴は靴」であり「服は服」であるのだが,ただそれだけではなく。
様々な「顔」を「デザイン」を持っていていい筈なのだ。
「縫い」と「染め」の技術力にも彼は卓越したものを持っていて。
「デザイン」と合わせたこの3点がとにかく「秀逸」で。
想像を裏切られても,いつもいい方に裏切ってくれる。
何よりも「物づくり」に対して「真摯」で「妥協しない」姿勢が魅かれてしまうところなのかもしれない・・・

「写真」を何枚か撮った後,一度軽く乗って走らせてみた。
久しぶりの「ブロンプトン」の乗り心地に思わず頬が緩む。
「革」の感触が素晴らしい。
勿論,色合い・風合いも。
撥水加工も施されているので,これからの季節には大助かりだ。
来週には,本当だったら今日一緒に渡される筈だった「バカラモデル専用携帯ケ−ス」が完成する。
彼のところで出される,とても美味しい珈琲を頂きながら、暫し色々なお喋りを楽しんだ後、僕は席を立った。
今,様々な注文が重なり大変忙しいという。
一山は越したと言うが。
その合間を縫っての今回の「レザ−カスタマイズ」であったのだ。

「じゃあ又来週!」

スタッフに珈琲の礼を言い工房を後にする。
もう僕の頭の中には「ブロンプトンレザ−カスタム」で海辺を悠々と走る自分の姿しか浮かんでいなかった・・・




2011/6/17(金)13:54 「自宅」にて


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