「305」「355」に乗って

「おやすみなさい!」

「大仏通り」に出,駅に向かう前に振り向くと「0467 Hasekamicho」スタッフのGさんが、まだ店の前で見送ってくれていた。
ここでは,ほぼ毎回といっていい程、このように客を外まで見送ってくれるのだ。
「おやすみなさい!」
と僕も返すと,本当に静かな「長谷」の街を駅に向かって歩き出した。
「0467 Hasekamicho」で飲んだ帰り。
深い夜の静寂な時の中に身を置くのはとても気持ちが良く,この一時が僕には至福の時となっているようだ。
いつもは「鎌倉」から帰るのだが,今日は「藤沢」から帰る事にしていた。
改札を入る。
「鎌倉」方面のホ−ムには誰もおらず「藤沢」方面のホ−ムには,男性が一人ベンチに座り、何やら一心に携帯を操作していた。
自販機で「カルピスウォ−タ−」を買うと,僕もベンチに腰掛ける。
「静かだ・・・」
キャップを捻り一口。
この「静寂」さの中に自分も同化していくのが分かる。
「このまま夜の一部になってしまってもいいな・・・」
そんな事を考えていた僕の思考の中に,入線を告げるアナウンスが。
4両編成の後ろ2両を目にした時,僕は心の中で「歓喜」の声を挙げていた。
「藤沢から帰る事にして大ビンゴだ!」と。
2両共,いつも会いたいと思っていた、あの一番古い「板張り」の車両だったのだ。
僕がまず乗ったのは「305型」の車両。
これから約30分の間乗っていられると思うとワクワクした。
車内をくまなく見渡す。
「江ノ島駅」で「355型」に移る。
「今夜もいい出会いがあったなぁ」
実は今宵「0467 Hasekamicho」で,偶然の嬉しい再会があったのだ。
その人は「OKASHI 0467」立ち上げ当時のパティシエで,病の為、辞めざる終えなくなってしまったのだが、その方が本当に久しぶりに顔を出されたのだ。
オ−ナ−のKさんも「驚きました」と仰っていた。
僕の事も憶えていて下さり,様々な話に花が咲いたのだが、最近ようやく病が良くなってきて、自分の店を出すという夢に向かって、再始動を開始されたようなのだ。
僕が一番好きな「06」番」のケ−キは,その方も「自分の中でも一番好きです」と話されていた事などを、鮮明に憶い出していた・・・

「藤沢駅」が近づいてくる。
「このままもう一度鎌倉まで乗るかな」
そんな思いが一瞬頭をよぎったが「これも一期一会だから」と思い直した。
タラップを降り,振り返る。
「305」と「355」の車両がそこに在った。
しっかりと目に焼き付けようと,暫しじっと見つめていた。
「また会えるよね」
と呟いた僕に「モチロン!」という声が聞こえたような気がした。

「不思議な一夜」は,こうして静かに幕を閉じようとしていた。

「人生は人と出会う為の旅か」
誰かが言ったそんな「言葉」が,僕の中でいつまでもいつまでも「反響」していた・・・



2011/7/29(金)14:06 「自宅」にて


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