ARTOUR SALONE【アルツール サローネ】

原宿駅から5分程の閑静な場所に,その新店舗ARTOUR SALONE【アルツール サローネ】はあった。
看板が出ている訳でもなく,店の名前はどこにもない。
先程訪いの電話を入れたら,ユリ音さんが途中まで迎えに来てくれた。
CLAUDIO CALESTANI【クラウディオカレスタ−ニ】東京は,その中で取り扱われる1ブランドという位置づけになったようだ。
店に入ると,バイヤ−でもある相川さんが笑顔で迎えてくれた。
そこにはとても寛げる空間が広がっていた。
久しぶりの挨拶と新店舗オ−プンのお祝いをのべる。
店のほぼ中央の窓際に,一際存在感のある大きめのソファ−が鎮座していた。
そこでミネラルウォ−タ−を頂きながら,ユリ音さんに、シルバ−関連一連を預ける。
縦長の店内で,入って左側の窓際が、ユリ音さんのシルバ−ワ−クの作業場となっている。
その付近に「クラウディオ」のラインナップと,今回初お目見えとなる、ユリ音さんのご友人である「絢の」の作品達が、ひっそりと陳列されている。
友人や周りの親しい人達からは,新店舗はモダンな感じで創られるのかと思われていたそうだ。
しかし,以前のショップにあった什器をそのまま使うつもりでいたので、それを活かしたいと考え、今のアンティ−ク調の雰囲気に落ち着いたそうだ。
これがまた最高にいい味を醸し出しているのだ。
ソファ−を含め,幾つかの什器が,あるブランドの物なのだが、これらが中心となって【アルツール サローネ】は、大変居心地の良い、唯一無二の「空間」となって「現出」したようだ。
細かな装飾品達にもお二人の拘りが反映されていて,それらを眺めているだけでも心が穏やかになり、時の流れが優しく自分を包み込んでくれるような心持ちになる。
一つ一つ,ひとブランドずつ、相川さんの目利きで、ここの住人となった「逸品」達を紹介していただいた。
その中でも気になった物があり「これは?」と聞くと,何と相川さんの私物だった。(笑)
それは帽子だったのだが,店のそこここにディスプレイとしてさり気なく置かれている。
笑ってしまったのだが,どこの店でも「これは?」と思い聞いたものは「売り物」でない事が多いのだ。
いつも惹かれる事のない帽子に惹かれるのはおかしいなと思ったのだが。
一回りして元のソファ−に戻る。
僕の位置から左斜め前に「そいつ」が見える。
先程「そいつ」についても相川さんから説明を受けていた。
実は店に足を踏み入れた瞬間,目に飛び込んできたのが「そいつ」だったのだ。
相川さんと話しながら「駄目だ駄目だ!」と思いながらも言ってしまっていた。
「ちょっと着てみてもいいですか」と。
「どうぞどうぞ,さっきも言いましたけど、中原さんにサイズはピッたりだと思いますし、とてもお似合いになると思いますよ」
二の足を踏んでいた訳は,勿論、絶対「高価」な物だという事はあるのだが、セットアップのパンツが、普通のスラックスタイプではなく、サルエルタイプになっている事だった。
サルエルパンツはどうしても好きになれず,自分が履く事は一生ないだろう位に思っていたのだ。
やたらピッタリだし,背の低い人間が履くとやたら変な感じだと。
だから履けたとしても,ある程度の身長がある人間でないと似合わないのではと。
「いや,俺は絶対お似合いになると思いますよ、サルエルパンツも」
そしてフィッティングル−ムへ。
出てきた僕への相川さんの第一声は。
笑顔で「ほらっ!やっぱり思った通りですよ。スッゲ−似合ってますよ!サイズもピッたりじゃないですか!?」
確かに測ったように僕に丁度よく,サルエルパンツも(ウエストは紐で縛る)、これだからこの服がより生きてくるのだという事が実感できた。
パンツをサルエルタイプにするなど,大きなチャレンジだった筈なのだ。
しかしそうする事で,この作品は「特別な逸品」へとステップアップを果たしたのだろう。
そこには貪欲な「職人の姿勢」「職人気質」が伺える。
プラス,このセットアップの最大の特徴は、その細部にまで拘られた「織り」にある。
相川さんが初めて触れた時にも,実はこれは一着しか残っておらず、それも、こんな拘り方の「逸品」は、もう二度と出ないだろうという話だったと。
ユリ音さんも笑顔で頷いてくれている。
この服に触れた時,相川さんは僕の事を憶い出してくれたという。
「中原さんにとても似合うだろうな。サイズもピッたりな筈だ」と。
相川さんは一度見て触れた方ならば,大体サイズは分かるし、憶えていると言うのだ。
「これは誰でも似合うという服ではないんです。中原さん位の年齢の方でないと。そして中原さんだからこそ似合う服でもあるんです」
その間,とても有名なア−ティストの方々を引き合いに出されて話してくれたのだが、とても納得出来たし、その通りだとも思えた。
みんな,それぞれに合う服があるし、それは年代とも、とても深い関係にもある。
「好きな服」と「似合う服」は違うのだ。
ただ僕は「声優」という「表現者」の仕事をしている関係上「実験」する事がいくらでも出来るのだ。
それをみなさんも,ある程度許してくれて。
ならば。
徹底的に追いかけるべきなのだ。
「先行投資」はし続けるべきなのだ。
そう言った意味でも,今迄手を出していなかった分野に、今の年齢で手を出す事となった。
それも今の自分に,より似合う服装に。
纏うという次元での「真ん中」の部分が出来たような気分だ。
ブレのない太い根幹が。

「DAMIR DOMA」 ダミールドーマ

このブランドの名前だ。
2006年,フランスで産声を挙げた、まだ若いブランド。
相川さんの言葉が,ここがどのようなブランドであるのかを物語っている。

「中原さん,これを着てパリを歩いたら、凄い注目の的になりますよ!」

それぞれに考えられた磨きを終えたシルバ−達を装着していく。
この時のシルバ−の感じを何と表現したらいいのだろう。
「柔らかくて暖かい」
気持ちを優しくホッコリと包み込んでくれるようなのだ。

年内にここを訪う事はもうないと思ったので,少し早い「良いお年を」をお二人に告げ、店を後にする。
左肩には大きな大きな袋。
そこには,大きな、とても大きな未来も詰め込まれているのだ。

原宿駅への道すがら「こいつ」を来年どこでお披露目しようかと考えていた。
答えはすぐに出た。
ニヤつく僕の姿は,すぐに雑踏に飲まれていく。

「2012」という年が,静かに静かに幕を閉じようとしている。
そして・・・

来年も「雄々しく吠える」自分で在りたいと強く願い、思った。

全ての「相棒達」と共に・・・



2012/12/24(月)1:12 自宅にて
           &
2012/12/27(木)14:16 同上


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